アド・アストラ | 海王星まで父を迎えに行く青い鳥

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あらすじ

突如地球を襲ったサージと呼ばれる現象。電磁波によって電子機器が破壊され、人類は危機に直面する。
サージの発生源は海王星。そこには20年前に地球外生命体の探査のために出発し、消息不明となった探査隊がいるはずだった。宇宙の孤独に耐えかねた探査隊の狂気が、地球への攻撃を決意させたのか。
探査隊の隊長の息子であるロイ・アグブライドが真相を明らかにすべく海王星に向かう。

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(C)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

感想

theriver.jp

「ただのSF映画ではない」という声が聞こえるけれど、むしろこれをSFとして観ると混乱する。この映画はSFの皮を被ったヒューマンドラマ。

この映画で一番良いなと思ったのは冒頭のシーン。
どんなことがあっても心拍さえあげずに対応できる冷静さと、自滅的な選択を取れる主人公の英雄性と狂気の一端を、軌道エレベータのような超高所からの落下のシーンで印象づける。
どちらの側面も物語を通じて主人公がいちばん変化する部分。映像的にもおもしろくて掴みはバッチリ。

その後は全体的にトーンを抑え、ブラッド・ピットの内省的なモノローグが続く。
『2001年宇宙の旅』のような雰囲気だなと思って観ていました。

途中までは——。

雲行きの怪しさを感じ始めたのは海王星へと向かうため火星の中継基地に向かう道中で、救難信号を出す宇宙船を発見して立ち寄るシーンから。
乗組員は全員死亡。宇宙で凶暴化した実験体のサルが原因というのがこのシーンのオチなのだけれど、このシーンは必要だったのだろうか。
好意的にみればサルでさえ宇宙の孤独に耐えかねて狂気を宿すのだから人間だってさもありなんというメッセージだけれど、
第一印象としてはダラダラ進むだけじゃつまらないから、とりあえずアクションシーンを入れてみましたという雑な感じを受けてしまう。そんなシーンならないほうがいいと思うのに。

同じようなシーンがこの後も続く。

火星から海王星に向かう宇宙船が出発するシーンでは、同行が許可されていないブラピが密航のため発射直前の宇宙船の外壁にしがみつく。
そんなことできるの!?と心の中でツッコミをいれたのもつかの間、ブラピは上昇途中の宇宙船のハッチを開けて内部に侵入。宇宙船の姿勢制御に問題は起きないのだろうか……。
当然船内には警報が鳴り響き、侵入者であるブラピを排除すべく、計3名の乗組員たちは立ち上がる。
上昇途中の宇宙船で、シートベルトを外して立ち上がる。危険な匂いしかしない。
案の定、ロケットの切り離しのときの衝撃で乗組員の一人が吹き飛ばされ、頭部を強打し死亡。
ブラピの登場で生まれた悲劇に怒った乗組員の一人が、ブラピに向かって銃を発砲。
宇宙船の中での発砲という蛮勇の結果、銃弾はブラピを外れ、ガスボンベ(中身不明)に命中。得体の知れないガスを撒き散らしながらボンベは船内を縦横無尽に飛び回る。
汚染された空気を吸った残りの乗組員たちは死亡。ブラピだけは船外から来たのでヘルメットを被っていて無事なのでした。
ここはこの映画屈指のコメディシーン。


さらにピックアップしたいのはラストシーン。
海王星に辿りついたブラピは、母船から移動用ポッドに乗り換えて父のいる宇宙船に向かう。父のいる宇宙船と移動用ポッドはドッキングができなかったため、ブラピは遊泳して宇宙船に掴まり船内に入る。固定をされていない移動用ポッドは宇宙の彼方へ漂流していき、ブラピは母船へ帰る手段を失う。
地球を危機に陥れるサージの発生源である父の宇宙船を破壊するため、ブラピは核を宇宙船に仕掛け、母船へ戻ることを試みる。
母船との距離は遠く、その間には海王星の環が存在していて、帰還は簡単ではなさそうである。
ブラピが思いついた帰還方法とは何か。
おもむろにぐるぐる回る父の宇宙船のアンテナによじ登るブラピ。外壁から身長くらいの金属板をとり外して、盾にするように身体の前にかかげる。
そして母船のものと思われる光の方向へアンテナの回転力を利用してジャンプ!
軌道計算しなくていけるものなのかというツッコミたくなる気持ちを、核の爆発が迫っているからイチかバチかにかけるしかないよね!という理解で押しとどめる。
海王星の環に突入するブラピ。環の中に漂う隕石を盾のようにかかげた金属板でガード! ここで役に立つのかという感心と
これだけ隕石に当たったら反動を受けて直線で飛べないよねという心配と
だから軌道計算なんて意味がないってことでやらなかったのか!
という謎の納得が駆け巡る。
一か八かの賭けに成功し母船に帰還したブラピ。今度は核爆発を利用して、地球に帰る推進力にするという。
物語の冒頭から、自滅的な選択をすることが多かった彼が、初めて自分を生かすことに必死になるシーンです。
核が爆発し、視界がホワイトアウトするほどの衝撃波が船体を襲う。
ここで疑問が浮かぶ。
地球までの軌道計算の話はひとまず置いておこう。地球までの道のりは長いのだから、軌道がずれても修正する余裕はあるだろう。
心配なのは核爆発。
サージの発生源を潰すために起こした核爆発もサージの発生源となるのでは?
父親のいた探査船がどのような原理でどれほどの規模の電磁波を発生させていたのか定かではないが、海王星の環を横断するほどの規模の核爆発で発生する電磁パルスが、それに負けるなんてことがあるだろうか。
おそらくこの核爆発によって、かろうじて生き残っていた地球の電子機器たちにも終止符がうたれたことだろう。

とまあ、SFとしてみると(物語としてみても)ガバガバな展開が多いのですが、父親に捨てられた男のドラマとして観ると見応え十分。
始めは冷静沈着で心拍さえ動くことのなかったブラピが、地球、月、火星、そして海王星と、父親に近づくにつれ冷静さを失い心拍が乱れていく。
徐々に明らかになる冷静な父親の狂気を知ると、冷静沈着なブラピと取り乱したブラピのどちらが“正気”なのかわからなくなる。それを表現するブラピの演技も見応えの1つ。

海王星で対峙した父親は遠いところに幸せを追い求めていて、目の前にいる息子を見ていない。普通なら、息子と一緒にいられるだけでも幸せじゃないのかと。
ずっと父親の背中を追ってきた息子だが、こうして父親の正面に立ってみるとこの先に自分の追い求める幸せはないのだと気づく。こんな遠くに自分の幸せはない。もっと近く、地球に幸せがあったんだと。
地球に帰った息子は離婚した妻とよりを戻す。本来、幸せは手の届くところにあるはずなんだ。

SFとしては疑問符だらけの作品だけれど、青い鳥の話としては感動できる映画でした。

青い鳥 (新潮文庫)

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