『オッペンハイマー』感想 | 科学は連鎖する


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アカデミー賞受賞のクリストファー・ノーラン作品がようやく日本公開。
原爆を扱う作品を日本で公開なんてできないなんて囁かれたけれど、観てみれば別に原爆を称賛している作品ではない。

「大気を発火」させかねないほどの威力の可能性に行き着いた科学と、人類はどう向き合い扱うか。
このままアメリカが核開発を続ければ、ソ連もそれに対抗して核が世界にあふれることになると警鐘を鳴らすオッペンハイマーたちに対して、ソ連に核開発はできないなんて推進派が主張するシーンがあるけれど、誰が行おうと再現できるのが科学の理想であって、その後の歴史は核が本物の科学であったことを証明している。
時系列を操作して、融合と分裂と連鎖の果てを水面の波面に重ねるラストシーンまでの演出は見事。

ただ、ある程度の前提知識がないとわからないところは多々ありそうで、例えば戦前の量子論のダイナミズムと有名どころの科学者を知らないと、若きオッペンハイマーのヨーロッパでの経験は意味不明で終わりそう。
このあたりは『量子革命』あたりが理解の助けになるのでは。晩年のアインシュタインがいかに量子論側から疎まれていたかもわかるので一石二鳥。

あとはこの映画の原作を読んでおけば、ノーランの演出を純粋に楽しめる。

大気が発火する可能性は「ほとんど」ゼロとしながら、トリニティ実験で爆破ボタンを押した科学者たちの緊張はいかばかりか。
トリニティ実験成功直後の歓喜を観ながら、悲哀を感じてしまうのは日本人の性だろうか。他の国の人たちは、歓喜しながらこのシーンを観るのだろうか。