あらすじ
前作『三体』で地球からのメッセージを受け取った異星文明・三体世界は、新天地を求めて千隻を超える侵略艦隊を地球へと送り出す。
四百数十年後に迫る決戦に向け宇宙軍を創設するが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン)に監視され、智子によって科学技術の進展さえ阻害されてしまう。
絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。葉文潔から“宇宙社会学の公理"を託された面壁者の中でただ一人無名の男・羅輯の決断とは?
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版
感想
※ネタバレだらけです
全世界2900万部のぶっ飛びようは前作からさらにスケールアップ。
四人の面壁者には無尽蔵の予算が与えられ、史上最大の宇宙戦艦が建造され、冷凍睡眠によって登場人物は数百年の時を飛ぶ。
物語の展開には無理を感じるけれど、些細なことなんて気にさせないほどのつめこみよう。
色々詰め込まれている中で、最も大事なのは「面壁計画」「宇宙社会学の公理」の二つ。
面壁計画
三体文明からの千隻を超える艦隊による侵略を400年後に控える地球文明。
当然、現代の地球にそんな艦隊に立ち向かうための力はない。三体艦隊と渡り合うためには科学技術の発展が必要だが、科学のフロンティアである量子分野が三体文明の智子によって阻害されているため、400年先の時間を考慮しても進歩が頭打ちになることは予想でき、兵力で劣る状態で三体文明との決戦に臨むことは必至。
力で劣る側が勝利を手にするには奇襲などの戦略で勝負するしかないが、情報もまた智子によって三体世界に筒抜けであるため、戦略的優位に立つことも難しい。
そんな劣勢の中、なかばやけっぱちな感じで見いだされたのが「面壁計画」。
三体文明は脳波によってコミュニケーションをとる。思考が相手に筒抜けの透明な世界に彼らは生きる。
一方で人類は、声や文章にしなければ思考を相手に伝えることができない。声や文章にしたところで、それが真実を表しているとは限らず、本当の狙いは別のところにあるかもしれない。
これが三体文明にとっては厄介で、人間が他人とコミュニケーションがした場合は智子によって行動を監視できるが、個人の内にある考えは彼らに読み解けない。
思考が相手に筒抜けの透明な世界で進化した彼らには、人類の偽装や陰謀といった戦略が有効だろうということで、選ばれし面壁者4名に前代未聞の絶大な権力を付与し、来たるべき決戦に向けて戦略を各々準備してもらうというのが面壁計画の概略。
異星人の考えがわからないというのは『ソラリスの陽のもとに』や『幼年期の終わり』であったけれど、いつも戸惑うのは人類側。
今回は異星人側が困るということで、逆転の発想。
言葉に出すと智子に読み取られてしまうからということで、主人公とそのパートナーが言葉にせず、表情や仕草でコミュニケーションをとるシーンがあって、それは人間の愛を象徴しているようでいい。
いやまあこれが、愛し合った人間同士は相手の脳波を読み取れるんだとかいう話になると、三体文明と同じじゃんということでややこしくなってくるんですが。
- 作者:スタニスワフ レム
- 発売日: 2015/05/29
- メディア: Kindle版
- 作者:アーサー C クラーク,福島 正実
- 発売日: 2012/12/21
- メディア: Kindle版
宇宙社会学の公理
この宇宙には文明がいくつもあるはずなのに、なぜ地球文明はその中のどれともまだ接触できていないのだろうというフェルミのパラドクスに対するこの作品の答え。
1. 生存は、文明の第一欲求である
2. 文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である
異星文明と接触したところで、その邂逅は幸福なものとならない。
仮に人類が、恒星間航行技術を持つ文明と接触したとしよう。彼らが親切にもその技術を人類に分け与えてくれた結果、もしくは人類が強制的に秘密裏にその技術を奪った結果、人類の技術レベルは大幅に向上するだろう。異星文明にも多少の恩恵はあるかもしれないが、人類の側のメリットのほうが圧倒的に大きい。高度成長期の日本や、今の中国を見るといい。技術は高いほうから低いほうへと流れ、その差は急速に縮まる。
そこまで高度になった文明を地球の資源だけで補えるはずもなく、人類は宇宙に眼を向けるだろう。そのとき邪魔になるのは異星文明だ。宇宙といえど物質の総量には限りがあって、今や同じ技術水準となった文明同士が自らの生存を賭けて争うことになる。
そんなことになるならば、最初から文明同士、邂逅しないほうが得策だ。宇宙に存在するどの文明も息を潜めて他の文明の出方をうかがっている。他の文明を見つければ、邪魔になるような技術水準に達する前に倒してしまうはず。
そんな論理に気づいた主人公が、三体文明の座標を宇宙中にばらまくぞと脅迫することで、三隊艦隊の侵略は止まるわけですが、この論理が正しいとするなら、ボイジャーやパイオニアに積んだゴールデンレコードは人類にとって致命的なものになるということですね…
それを拾う宇宙文明が、ちっぽけな人間が考えた公理なんて超越していることを祈りましょう。
終わりに
日本では今話題になっているけれど中国で出版されたのは10年も前。
10年前にこんなイマジネーションに触れられたというのはホントうらやましい。
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版
- 作者:劉 慈欣
- 発売日: 2020/06/18
- メディア: Kindle版