ハロー・ワールド|こんにちは、数年後の世界

あらすじ

エンジニアの文椎<ふづい>は専門を持たない「何でも屋」。ささやかなITテクニックと仕事仲間と正義感を武器に、文椎がインターネットの自由を求めて立ち上がる短編集。

【Amazon.co.jp限定】ハロー・ワールド(特典: オリジナルショートストーリー データ配信)

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感想

作者は『Gene Mapper』『オービタル・クラウド』の藤井太洋。
どの作品からも伝わってくるのが、彼がオープンソースの信奉者であること。
人も情報もテクノロジーも自由であるべきだと、この人は信じているのだと思う。

Gene Mapper -full build-

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オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

オービタル・クラウド 上 (ハヤカワ文庫JA)

そんな藤井太洋の最新作のお題はインターネットの自由。
中国によるネットの検閲は前々から有名だし、そこまであからさまでは無くても各国政府は少なからずやっていることだろう。
最近だと、フェイクニュースがネットの自由を歪めている。
さらには、富と情報を囲い込むGAFAに世界が圧力をかけ始めている。
そんな現状で「インターネットの自由」をお題にした小説とは。 
SFとは銘打っているけれど、タイムリーすぎてテック小説といったほうが近いのではないか。小説の舞台も今後数年の出来事だし。

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

はてさて、インターネット、ひいては人や情報やテクノロジーは、いったい何から自由にならなければならないのだろう?
いちばんわかりやすいのは「権力」だ。
情報の自由は守られるべきだし、いかなる権力も基本的人権を侵してはならない。権力に独占されたテクノロジーが、人を幸せにしたなんて話はとんと聞いたことがない。
この本の第4章「巨人の肩に乗って」は、ネットを権力から解き放つお話。インターネットの自由を守るべく、日本の警察に逆らった主人公は、国を出ざるを得なくなるけれど、国というくびきから解放されたと考えればハッピーエンド。

とはいえ「権力」から逃れるだけでは、真の自由は得られない。
世の中にはもっと強力で、存在することが当たり前すぎて気づかない束縛が残っている。

「金を稼ごうとすると、つまらないことばかりだ」 p167

と小説中にはあるし、ピーター・ティールも「空飛ぶ車が欲しかったのに、手にしたのは140文字だ」とため息まじりに言っている。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

なぜそんなつまらないことが世の中に溢れているのかといえば、つまらないことをしたほうが稼げるシステムができあがってしまっているからだ。
夢を求めてチャレンジするよりも、過去と同じことを繰り返しているほうが、よほど儲かる経済システム。
僕らはそのシステムに組み込まれ、囚われている。 最終章の「めぐみの雨が降る」はそんな市場経済を仮想通貨でリビルドしようという話。
サトシ・ナカモトが提案したビットコインの考え方は、既存の貨幣の仕組みに囚われすぎている。
そもそもマイニングに上限があるというのがおかしくて、アカウントを開設したら、そこにベーシックインカムよろしく無料で仮想通貨を振り込めばよい。
仮想通貨の価値は何が担保するのかという話になるけれど、そもそも通貨の正体は「信用」なのだから、みんなが使えば価値を持つだろう。たとえ金と交換できなくても。
それが現実に可能なのかは知らないけれど、小説だからこそできるぶっ飛んだ考え方である。

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

という感じで、小説という媒体をいかして、今後数年のテクノロジーを自由に想像した作品に仕上がっております。
ただ、行間が広い。読者には行間を読む力が求められる。文学的にではなく、テクノロジー的に。
GAFA、AWS、マストドン、Swift、D-Waveなどなど。
思いだすだけでもこれだけのテクノロジーワードが何の説明もなく投げ込まれる。ある程度知らないと読むのが辛いかも。

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