東京の子 | オリンピック後のディストピア

あらすじ

オリンピックが終わった2023年の東京。減少する労働人口を補うべく、日本は多くの外国人労働者を受け入れていた。労働者に技能を身につけさせるベく、オリンピックの跡地に生まれた「理想の大学校」デュアルから、ベトナム人ファム・チ=リンが失踪する。変わりゆく東京で、名前も年齢も偽り、過去を隠して新たな人生を歩んでいた何でも屋、舟津怜は彼女の捜索を依頼される。

東京の子

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感想

大河ドラマの『いだてん』を代表に、来年のオリンピックを盛り上げよう、オリンピックはすばらしいといったフィクションが溢れる中で、オリンピック後の東京ディストピアを描いたフィクションは珍しい。
数年先の日本に対する描写は痛烈で、1964年のオリンピックが先進国日本の幕開けならば、2020年はその終焉とも言いたげだ。

仮部は「ここは、インテリがくるような国じゃないぞ」と呟いてみた。
かつて日本にやってくる外国人には、相当な割合でインテリが含まれていたのだとダン・ホイから聞かされたことがある。賃金の高い日本で学資を稼いだり、起業のための資金を貯めたりしていたのだそうだ。だが、経済成長を諦めた日本の賃金は東南アジアとそれほど変わらない。ベトナムの最低賃金は、ついに日本円にして時給九百円を超えたという話だ。 p71

そんな未来を否定できないのが苦しいところ。
今の日本を見てみれば、ドラえもんも、鉄腕アトムも、鉄人28号も作ろうとせず、海外の労働力に頼るために数字と言葉遊びを繰り返す。
そんなの成長を諦めたと言われても文句が言えない。 同一労働同一賃金の原則に従えば、海外の安価な労働力に頼る国がの賃金が、高価であっていいはずがないわけで。

日本の労働と賃金を適正化すべく設立された「理想の大学校」デュアルは、合理的なシステムを備える一方で、そのシステムが不公平な側面を持つという批判される。
例えば今でこそ、同一労働同一賃金が理想だなんて言われているけれど、それが実現したらしたで、不公平だという人も出てくるだろう。

いくら同じ仕事をしてるからって、新入生と上級生、それに外国人も同じ給与だなんておかしいでしょ!」 p207

そんな状況に陥ったとき、どうするべきか。
事実を隠さず共有して話し合うしかない。

「あんな風に話し合ってうまくいくのかねえ」
「話さないよりはいいんじゃないですか」 p351

今まではそれが足りなかったのだと思う。
事実を隠して不正も忖度もうやむやに。

物語全体を通して、言っていることには頷けるのだけれど、あまりに現実が色濃く投影されていて、その空気にむせてしまいそう。
個人的な思いとしては、『Gene Mapper』や『オービタル・クラウド』のような技術重視の内容で、科学との向き合い方を描いたSFが読みたいのだけれど……。

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