フーガはユーガ | 伊坂幸太郎の『悪童日記』

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あらすじ

常盤優我は仙台市内のファミレスで一人の男に語り出す。
双子の弟・風我のこと、決して幸せえなかった子供時代のこと、
そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。   —— 帯文より

フーガはユーガ

フーガはユーガ

感想

伊坂幸太郎の約一年ぶりの新作は『タッチ』で『悪童日記』で『重力ピエロ』。

※多少ネタバレあり

『タッチ』というのはもちろん、同じく達也と和也の双子が活躍するあだち充の野球マンガのことである。
もともとあだち充と伊坂幸太郎は「間」で話を進める落語のようなストーリーテリングが似ているなと個人的に思っていたのだけれど、今回は同じ双子が題材ということで鮮明に。
本文にもあだち充が登場するので、これはもう公式で認められたといっても過言ではないのでは。

僕と風我は何も言わず、その場を立ち、離れた場所で漫画本を読み始めた。拾ってきたものだから、巻数はばらばらの、おそらく、『タッチ』か『ラフ』だったのではなかったか。僕たちの、苦痛と恐怖に満ちた日常と、あだち充の描く世界とはずいぶん差があって、それこそ、『指輪物語』じみたファンタジーのようなもので、逃げ込みたくなる場所の一つだった。 p51

タッチ 完全復刻版(1) (少年サンデーコミックス)

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同じく双子で、さらには過酷な環境を生きるという点ではアゴタ・クリストフの『悪童日記』に重なる。というより、意識して書いているのでは。
『悪童日記』の二人が立ち向かうのは戦争で、『フーガはユーガ』の二人が立ち向かうのは父親のDVと母親の無関心、という感じに現代風にアレンジされている。
『悪童日記』の二人は最後には離れ離れになるけれど、風我と優我は一つになる。
そういった違いはあるけれど、感じる切なさは同じである。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

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そして兄弟愛という点では、伊坂幸太郎自身の『重力ピエロ』を思い出す。
サイコパスな父親とその遺伝的な形質から逃れようとする息子という構図も『重力ピエロ』に重なる。
昔からあるGene(遺伝子)とMeme(模倣子)の問題。父親が犯罪者ならば、自分もそうなるのではないかという悩み。
(作中で言及されてはいないけれど、高杉という登場人物は、ひょっとすると、小玉の叔父の息子なのではないか。
そのほうが父親の遺伝子にしたがう高杉と、父親を反面教師にする風我と優我という対立が鮮明になるし)
今回はさらにそこに、「双子」と「入れ替わり」という題材からの人の二面性というテーマが絡んできてより重奏的に。
家にいるときと、外にいるとき、どちらが本当の彼・彼女なのだろうか?

重力ピエロ (新潮文庫)

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全体的に楽しめて、最後はちょっぴり切ない作品。
長年のファンに向けたサービスもあるし満足。

「ユーガって伊藤さんが話してた案山子の名前と似ている」 p195

これは『オーデュボンの祈り』のことだろう。

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

ただし、心配なことが一つだけ。
例のごとく仙台が舞台なのだけど、今回はいつも以上に説明なく、仙台の地名を登場させているような。
クリスロードとか、榴岡公園とか、仙台に馴染みのない人があの説明でわかるのだろうか…… 知りたければ、おいでよ宮城、ということか。

フーガはユーガ

フーガはユーガ