『THE DAYS』感想 | あれから僕たちは進歩しているのだろうか


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福島第一原発事故を取り扱ったNETFLIXオリジナル作品。
原発事故のドラマといえば最近だとHBOの『チェルノブイリ』と被る。 似たような題材だけれど、いきなり爆発したチェルノブイリに対して、フクシマは地震発生後、津波の被害を受けてから「最悪の事態」が起き得るまでにはタイムラグがあったので、その時間差がタイムリミットとして働いて、『チェルノブイリ』とはまた違ったドラマ性になっている。

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全電源を喪失して文字通り真っ暗闇の中で、全く状態がわからなくなった原子炉。
かろうじて計器を復活させても、原子炉の水位は下がり続け、格納容器の圧力はとうに設計基準値を超えていて、いつ爆発するかわからない。
やっと圧力を減らせたと思ったら建屋が爆発。しかも1棟ならず、3棟もまるで連鎖しているかのように爆発していく。
そんな中でも何とか暴走する原子炉を決死の覚悟で手なずけようとする職員たち。
彼らがいなかったらたぶん、東日本は放射性物質で壊滅していた。

ドラマを見ていて思うのは、10年前も今も変わらないなということ。
専門家が「可能性はゼロではない」と発言して吊し上げられるのはコロナでも見た光景だし、何も理解していない上の方が責任のパス回しをした結果、本質ではない上に時機も逸した指示が現場に降りてきて現場に余計な負荷をかけるというのは今でもどこの組織でもあるのではないか。

一方で、現場の力が称賛されてはいるけれど、あれから10年が経って、現場はその力を維持できているのだろうか。
あの日以降、国内の原発事業はすべてが止まっているわけで、人材の補充や育成が充分なのだろうか。ドラマではベテランの運転員が活躍するけれど、当時でそれくらいベテランだった人たちはすでに定年の年齢に達している。
2023年の現在、慌てて原子力を復活させようとしているけれど、20代や30代の10年分の世代がごっそり抜けて、指針になるべき50代も現場経験が足りないとなったら、組織はうまく機能するのだろうか。
マニュアルに従って行動できる人間の頭数をそろえることはできるかもしれないけれど、福島第一原発の全電源喪失といったようなマニュアル外の事態に対応できるとは思えない。自動車のバッテリーをかき集めて直列につないで、原発の機械を一時的に動かすなんて機転を効かせることは、ハードウェアに対する素養と運転員としての経験がないとできないことだと思う。
このITを重用している時代の中で、ハードの素養を持つ人間がどれだけいるか、そして経験を詰むには時間が必要になるわけで、最近の原発回帰への急ぎ方は、10年のブランクを甘くみているように思う。

この事故はチェルノブイリと並んで最高のレベル7の事故に分類されていて、これ以上の事故はないという感じになってはいるけれど、当時の現場力があったからそこで踏みとどまることができたわけで、それがなかったら被害はこのさらに上をいっていたと認識するドラマ。
そして、今後この規模の事態に直面したら、それこそ対処できる人間はいないかもしれない。


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