チェルノブイリ | ウソの代償

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反核・反原発ドラマと思って見始めたらあっさりと裏切られた。
そんな枠には収まらない社会派ドラマ。
第1話冒頭のモノローグが端的にこのドラマのテーマを表している。

ウソの代償とは?
真実を見誤ることじゃない
本当に危険なのはウソを聞きすぎて真実を完全に見失うこと

チェルノブイリで爆発が起こった当初、発電所の上層部は非常用タンクが爆発したのだと思い込む。
原子炉が爆発するなんてあり得ない。
現場の作業員が放射線やけどを負いながら状況を説明しても聞く耳を持たない。原子炉が爆発するなんてあり得ないからだ。
原子炉内にあるはずの黒鉛を見つけた? 見間違いだ。
高放射線下で発生するチェレンコフ光が見えた? 平常時でも起こりうる。 挙げ句の果てには簡易線量計が振り切れた3.6レントゲンという数値を取り上げて、大して高くない、原子炉が破損してこんな数値になるわけがないと結論づける。実際には2万レントゲンあるにも関わらず。
発電所の上層部は3.6レントゲンという数値をモスクワに報告し、事故の全容が全く把握できていない中で、発電所は制御下にあるとのたまう。
ここまで来ると、地位や保身のためにウソをついているというよりも、都合のいい数値にすがっているうちに、何がウソで何が真実なのか分別がつかなくなっていると言っていい。

これぞ社会主義体制の極みと嗤うことができればいいのだけれど、現実に戻ってみれば、コロナウィルスが拡大中で、封じ込めがうまくいかなかった中国や、心許ない日本の防疫も同じような状況に陥ってはいまいかと、心配になる始末(コロナウィルスに限らず)。
もっと身近なところでは、「3.6レントゲン」のような都合のいい数字やデータにすがって踊らされて、窮地に陥るプロジェクトをいくつも仕事で見ているので、自分の所属する組織が心配になる。


ガイガーカウンターのガリガリという音はホラー映画顔負けの恐ろしさ。
そんな「動」の恐怖とは対照的に、チェルノブイリからの避難者を中心にして描かれる「静」の恐怖も恐ろしい。
チェルノブイリの事故を見物するために見通しのいい橋に集まった人たちの頭上に、雪のような死の灰が降る。チェルノブイリが「見える」ということは放射線を「浴びる」ということなのに(実際、この橋の上にいた人は全員亡くなったという)、何も知らない市民はチェレンコフ光の幻想的な光に心奪われる。事故から1日経っても、子どもたちは青空の下、外で遊んでいる。
チェルノブイリの初期消火にあたった消防士たちは大量の放射線を浴びたせいで全身が壊死し、血を流しながらベッドに横たわる。妊娠した妻が訪ねてくれば、思わず抱きしめてしまう。自分の身体から出る放射線が、妻の身体を蝕んでしまうことなんて知らずに。
このあたりは『チェルノブイリの祈り』を下敷きにしていそう。文章だけでも身の毛がよだつ出来事が、映像で再現されている。

チェルノブイリの祈り-未来の物語 (岩波現代文庫)

チェルノブイリの祈り-未来の物語 (岩波現代文庫)


こんな惨劇を生み出した原因は何なのか。
ドラマの中では1つの解答が示されるけれど、それが歴史の真実とは限らない。
冒頭の引用には続きがある。

ウソの代償とは?
真実を見誤ることじゃない
本当に危険なのはウソを聞きすぎて真実を完全に見失うこと
そのときどうするか
真実を知ることを諦め物語で妥協するしかない

つまりこのドラマも真実を諦め、物語に妥協した結果なのかもしれない。
その妥協こそ、ウソの代償である。

チェルノブイリの事故こそがソ連崩壊の真の原因かもしれない

エンドロールでゴルバチョフの言葉が引用されているが、本当にチェルノブイリが原因でソ連は崩壊したのだろうか。
このドラマを見る限り、チェルノブイリはソ連崩壊の縮図としか思えない。
崩壊の原因は、ウソをつきすぎ、聞きすぎて、真実を見失ったことだ。
それはソ連だけに当てはまることだろうか。