『「いい会社」はどこにある?』感想 | となりの芝生は青くて赤い

会社と職業を選択するときの軸を12の条件に整理して解説。普段からニュースサイトを運営して、様々な会社の社員にインタビューしている著者が書いているので、四季報や業界地図にはない具体的で生々しい話が載っている。ここまで生々しいと、転職口コミサイトでも載せられないのではないか。
本文だけで800ページ以上あるけれど、脚注にはニュースサイトの記事へのリンクのQRコードがあり、読み切れないほどの情報量。

この本がターゲットにしているのは新卒の就活生だと思うけれど、転職を考えている人にも有用だし、何なら転職を考えていない人でも読んだらおもしろい。
本の中で上げられている名のある企業の話を読んで、そんな世界もあるのかとか、そういうのってうちの会社でもやっているけど当たり前じゃないのとか、調子よく見える会社でもどこかに歪みはあるのだなとか、他の会社の内情を見るのは楽しいし、参考になる。
隣の芝生は青くみえがちだけれど、赤い部分は所々にあって、それを考えたら今の環境で頑張ろうとも思えるのではないか。まあ、その環境に耐える決断をするのは、この本の趣旨とは違うだろうけど。

会社だけではなくて、公務員や職種にも触れられていて、手に職をつけて組織に縛られずに一生働ける仕事としてあげられているのが医者や看護師などの医療系の職。でも、本の中でも言われている通り、この道に進むには大学に入ってからの就活の段階では遅くて、高校の段階から進路として見据えてなければいけない。
自分なんてとりあえず良い成績をとっていけば何かしらの道は残っているでしょうと何の志もなくダラダラと大学に進んだ人間なので、知らず知らずのうちに道が閉ざされていたと思うと何だかもったいない気がする。かといって私は病気の症状を聞くと自分の身に当てはまっていないかと心配になって眠れなくなるタチの人間なので、そんな道があることを知っていたとて、医療の道を志すことはなかったと思うけど。
そう考えると、多くの人間が大学の後半の1年ぐらいで急ごしらえの志望動機を作って就職していく日本の職業教育って遅いし場当たり的だなと。
若者の可能性を潰さないためにも、この本は高校生くらいから読んでおいてもいいのかもしれない。この本に書かれている日本企業の閉塞感やブラックさを見て、希望を失ってもらっては困るけれど。

残業時間の訊き方

いろいろとためになる話はあったけれど、なるほどと思ったのは残業時間の訊き方。
自分自身、就職活動中の学生とふれあう機会がたびたびあって、そうなると残業時間を訊かれるもある。というより、必ず訊かれる。訊きたい気持ちはわかる。自分だって学生だったらいちばん気になる。
けれど、ストレートに「残業時間はどれくらいですか?」と訊かれても、こっちも会社が平均としてどれくらいの数字を出しているかは知っているのでそれが答えの中心になってくる。だって、職場によっても時期によっても、何なら人によっても波はあるわけで、だったら会社の平均時間を答えておこうという気になる。でもそれは四季報以上の情報ではないので、望まれている答えではないのだろうなといつも思っている。
代わりにこの本で言われているのは退社時間を訊けと言うもの。確かに、「いつもどれくらいの時間に退社されていますか?」と聞かれたら自分の本当の時間をポロッと答えてしまうだろう。
最近だとフレックスの職場も増えているだろうから出社時刻も合わせて訊くといい。インターンとかで職場に入り込んでいる状況なら訊かずとも周りを見ていれば出社時刻はわかる。
出社時刻と退社時刻がわかれば実質の残業時間はわかるわけで、それが会社発表の残業時間とかけ離れているなら何かを察することができる。
時間が乖離しているだけなら良いけど、残業代まで乖離していたらたまったものではないので、そのあたりはきちんと確認をとってほしい。

最後に

この本を読むと、どれだけ今の日本の会社に閉塞感が漂っているか、持続可能性がないかがわかってくる。
バラ色の未来を描いて就職するのもいいけれど、ネガティブな事情も知った上で、それでも入ってもいいと思える会社を見つけられたら、将来的には幸せなのではないか。
真っ青な芝生なんて、どこにもないのだから。