『シン・エヴァンゲリオン』を実際にプロジェクトを進めた人間がプロジェクトマネジメントの観点で総括した稀有な本。
本文にも書かれているけれど、プロジェクト・マネジメントに関する本は世の中に数あれど、実際のところを総括した本はなかなかない。そんな中、興行収入100億円を達成した『シン・エヴァンゲリオン』についてのプロジェクトマネジメントを本が出たわけでこれは買い。
のっけからプロジェクトを始めるにあたってシステムが古かったので刷新しましたという話がされていて、どこにでもある話だなと。設立から15年ちょっとの会社でもそうなるのだから、世の中の企業がどんな状態で動いているかを想像すると恐ろしい。
書いてある内容から『エヴァ』の制作会社であるカラーは綿密に考えて刷新を進めたように受けとったけど、これをできる会社が世の中にどれくらいいるのだろう。小規模な会社だと理解できている人間が揃わず、大企業だと影響範囲が大きすぎて刷新できないわけで。
このエピソードに限らずこの本を読み進めていくと、かなり細い道を通って『シン・エヴァ』というプロジェクトは成功したのだなと思う。
プロジェクトが成功するか否かは薄氷の上を進んだ結果で決まるものであり、どこかの偉い人の思いつきで始まり、成功することが絶対視されるようなプロジェクトは何か違うよな、と。
世の中にあるプロジェクトの中でもアニメは特に当たりハズレが大きいことは意識しているそうで、エヴァ関連のライセンス収入が不動産投資でアニメ制作以外の収入を稼ぐようにしていたからこそ、『シン・エヴァ』でリスクをとることできたという話も、なるほどな、と。
そりゃ死に物狂いで作品を作っているのだろうけれど、背に腹は代えられないわけだから、失敗してもなんとかなるという余裕がなければリスクを取れず、おもしろい作品も作れない。
『シン・エヴァンゲリオン』のプロジェクトマネジメントなんて、どういうスタンスで読めばいいのか迷いながら読み進めたけれど(そもそも「スケジュール」の観点だけなら前作から10年以上経っていて「失敗」に分類されるだろうし)、得るものはありおもしろい内容だった。