かがみの孤城 | 思春期のモヤモヤを文章に

あらすじ

ある出来事がきっかけで学校に行けなくなった中学一年生のこころ。毎日を家で過ごす彼女の前で、ある日突然、鏡が輝き出す。鏡をくぐった先には城があり、こころの他に中学生が六人集められていた。現実から隔てられた世界で、七人の中学生は心を通わせていく。

かがみの孤城

かがみの孤城

感想

※ネタバレにつながる部分があります

作者はドラえもんの映画の脚本を担当することも決まった辻村深月の本屋大賞受賞作。

『僕のメジャースプーン』や『ツナグ』でファンタジックな設定を操り、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』では地方の人間関係の閉塞感と居心地の悪さを描いた辻村深月。
そんな彼女が「鏡の中のお城」というファンタジーと、「不登校の中学生」という人間関係に悩む象徴とでもいうべきキャラクターを扱うのが本作。

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ツナグ (新潮文庫)

ツナグ (新潮文庫)

フタを開けてみれば中学生という多感な時期の感情の描き方は見事。
人に見下されることに敏感で。
そのくせ自分でも気づかないうちに人を見下していて。
大人の助言や庇護は的外れのように感じて従えず。
「あの頃、自分もそう感じていたな」と思い出すだけにとどまらず、「だからあの時、自分はイラついていたのか」と妙に納得してしまうような書き方が秀逸。

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)

一方で、ファンタジーのほうは——。
どうなのだろう。
どうにも「かがみの城」の世界に自分は入り込めず、ただ物語のためにある小道具のような感じから抜け出せなかった。
まあ、それも城の管理人である<オオカミさま>が物語のために作った世界という設定から考えれば、設定に沿っているのかもしれないけれど……

終盤までに伏線が色々と貼られているけれど、「これは伏線ですよ」とでもいうような感じで伏線の念押しが多くあって、中盤までにラストが予想できてしまうというのも残念なポイント。
最後までファンタジーにだまされていたかった。

ただ、思春期の頃のあの言葉にならない感情を、言葉にされる気持ち良さを味わいたければ、それだけでも読む価値がある。

かがみの孤城

かがみの孤城