あらすじ
製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。 ——帯文より
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2019/07/09
- メディア: 単行本
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感想 ※ネタバレあり
タイトルの『クジラアタマの王様』がいったい何のことをさしているのかわからない。クジラと言いつつ、表紙の絵が翼? と混乱。
あらすじを読んでも全く内容がわからない。
本をパラパラめくると、挿絵というか漫画というべきものがそこら中に挿入されていて、何だか危険な薫りがする。
伊坂幸太郎の名前がなかったら全く食指が動かなかったことだろう。
けれど、そこはさすがというかやっぱりというか、予想と論理を超える伊坂幸太郎の真骨頂、風が吹けば桶屋が儲かる式のプロットと軽妙なかけあいで読者を楽しませてくれる。
内容やセリフ回しについては読んでもらうしかないとして、読む前にいちばん気がかりだったところどころに挿し込まれた漫画パートについて。
この物語は主人公たちが生活する現実の世界と、彼らが見る夢の世界のパラレルワールドが登場する。夢の世界は中世のファンタジー色が強く、そこでの結果は現実の世界と緩くリンクしている。
読んでいて『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のような雰囲気だけれど、どちらの世界も丁寧に文章で表現した村上春樹とは違って、伊坂幸太郎は夢の世界をほぼ漫画に任せて話を進める。
そのおかげ現実世界の疾走感が失われず、物語がテンポよく進む。漫画と小説の組み合わせなんてキワモノな感じがするけれど、うまく融合している。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)新装版 (新潮文庫)
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
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ファンサービスと地元サービスもバッチリで、ちらりと登場する「カタツムリのヒーローの絵本」と「パスカ」というガジェットは、『シーソーモンスター』からの登場。
あとがきにあるように、作中に登場する「サンファンランド」は、牡鹿半島にある「サン・ファン・バウティスタパーク」に名前を似せたとのこと。宮城沿岸にあるこのミュージアムに震災前に行ったことがあったので、個人的にジンとくるものがある。ちなみにこのミュージアムには支倉常長にまつわる展示があるので『オーデュボンの祈り』つながりともいえる。
- 作者: 伊坂幸太郎
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- 作者: 伊坂幸太郎
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この物語から感じたテーマは2つあって、1つは夢に逃げずにいま目の前にある問題に立ち向かえというもの。
作中、夢の世界で問題を解決すれば、現実の世界でも問題が解決するという話が何度も出るのだけれど、最終的に主人公は夢に頼らず自分で問題に立ち向かうことを選択する。
考えてみれば当たり前で、そっちのほうがまっとうで近道。怪しげな宗教に頼るような脇道に逸れず、自分で努力しよう。
ゲームの世界に逃げ込まず「大人になれ」と説く、話題の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』に似たテーマの気がするけれど、この納得感の差は何なのだろう。
ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 映画ノベライズ (ダッシュエックス文庫DIGITAL)
- 作者: 堀井雄二,山崎貴,宮本深礼
- 出版社/メーカー: 集英社
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もう1つのテーマは、この世界に明確な敵はいないというもの。
物語の中で主人公は世界がひっくり返るような騒動に巻き込まれるのだけれど、その騒動の黒幕ははっきりしない。
黒幕をはっきりさせないという傾向を『ゴールデン・スランバー』の頃から伊坂作品に感じていて、そのときはそういうものかと読み流していた。けれど、最近のフェイクニュースとかで誰が真実を言っているのかわからない状況下で、極に振れる人や大衆を見ていると、本当の悪役なんて存在しないのではという気がしてくる。
人や大衆の雰囲気が先にあって、そこから後に悪と後ろ指を指される人物が生まれる。だとすれば誰が悪役を務めるかは問題ではなくて、彼らを生み出す雰囲気のほうが重要だということを今さらながら気づいた次第。
- 作者: 伊坂幸太郎
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久しぶりにエンタメの中にテーマ性を感じる作品。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」(重力ピエロより)という声がどこかから聞こえてきそう。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
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