夜空の呪いに色はない | 夜を経験せずに大人になれるのか

あらすじ

『階段島』シリーズ第五弾。
捨てられた人格が生活し、魔女が支配する「階段島」。その島にやってきた小学生の大地を現実に戻すべく、高校生の七草と真辺は奔走する。大地のような幼い少年が、自分の人格を捨てるなんてことがあってはならない、と。突き刺さるトクメ先生の言葉。魔女の呪いとは何か。大人になる中で彼らは何を失うのか。

夜空の呪いに色はない(新潮文庫)

夜空の呪いに色はない(新潮文庫)

感想

作者は去年アニメ化されて、話題になった『サクラダリセット』の河野裕。

BOY, GIRL and ―― 3/4

BOY, GIRL and ―― 3/4

この人の本を初めて読んだのが、このシリーズの第1作目『いなくなれ、群青』で、独特の世界観と文体に衝撃を受けたのです。
魔女に支配されて、現実世界からは隔離された島。けれど、Amazonは使えたりして。そこに住む人たちは「捨てられた人格」というだけあって、どこか変わっているのだけれど嫌いにはなれない。
現実味はないけれど、何かを伝えるための舞台設定だと思えば十分。雰囲気は伊坂幸太郎の『オーデュボンの祈り』にどこか似ている。

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

そして文体は、とてもウィットに富んでいて、読んでいて飽きない。Twitterで作者本人が村上春樹ファンといったことを言っていたけれど、それも納得。きれいで、けれどどこか毒があって寂しげで、影のある文章が僕を引きつける。
自分は本を読んで、気に入った文章を抜き書きするようにしているのだけれど、このシリーズを読むといつも、抜き書きの量がとんでもない多さになって、読むのと同じくらいの時間がかかってしまう。
それぐらいにこのシリーズの文章はお気に入り。

シリーズ通してのテーマは「青春とは何か」「成長とは何か」だと思う。そしてこれまでのシリーズは「成長とは何かを捨てることだ」と言ってきた。
この辺は、去年の『打ち上げ花火——』に似ている。

www.subtle-blog.com

「捨てられた」階段島の人々は「成長」のメタファーなのである。

そして今作は、「大人とは何か」ということに焦点が移動する。

「朝は夜の向こうにあるものです。正しく大人になるには、ひとつひとつ、誠実に夜を超える必要があります」 「夜?」 「暗く、静かな、貴女だけの時間です。夜がくるたびに悩みなさい。夜がくるたび、決断しなさい。振り返って、後悔して、以前決めたことが間違いならそれを認めて。誠実な夜を繰り返すと、いずれ、まともな大人になれます」 p93

ここにきて、1巻から登場していて、けれどテーマへの関わりが明確にはなかった大地の存在が輝きだす。
何かを捨てたはずなのに、階段島側の大地も、現実側の大地にも大きな違いは見つけられない。
はたして彼が捨てたものは何なのだろう? 捨てることで何になろうとしたのだろうか?

サクラダリセットの語り口がハマった人は、今作も必ず好きになるはず。

来年には第六弾が刊行予定。それを持ってシリーズ終了ということで、もしかしたら刊行とほぼ同時にアニメ化ということもあるかもしれない。先取りのためにもぜひ。

夜空の呪いに色はない(新潮文庫)

夜空の呪いに色はない(新潮文庫)