『イーロン・マスク』感想 | SFを現実に

決済サービスを皮切りに、宇宙開発企業と自動車製造業に手を出し成功し、今ではメディアも手中におさめる人間と聞いたら、どこかのSFか何かに出てくる現実離れした権力者のようだけれど、現実にはイーロン・マスクという男が存在するわけで、この本はそんな男の初の公式伝記。作者は『スティーブ・ジョブズ』のウォルター・アイザックソン。

上巻はPayPal、スペースX、テスラの話が中心。ビジョナリーという言葉では生やさしすぎる、猛烈で泥臭い働き方で会社を成長させてきたのがわかる。
下巻はTwitter(現X)の話が中心。上巻で語られた勢いをみると、現在進行形でTwitterの運営に苦慮しているのが納得できる。社員のためにカフェや昼寝のスペースを用意する労りの企業文化だったTwitterと、製品のためには工場の床で寝ることも厭わないようなCEOでは水と油なわけで、そう簡単にわかりあえるとは思えない。
かといって、自分について来ることができない社員を総入れ替えしようにも、こんな猛烈な働き方ができる人間なんて限られていて頭数が揃わないわけで、さすがにマスクの快進撃も続かないのではないだろうか。

テスラとかスペースXとか、SF好きには憧れるところもあるけれど、こんな猛烈な働き方に耐えられるかと問われたら、少なくとも私には無理である。