mRNAワクチン登場
新型コロナに有効なワクチンが開発されたというニュース。
ワクチンが開発されるだけでも明るい話なわけですが、ファイザー陣営とモデルナ陣営が手がける2つのワクチンはmRNAを使った次世代ワクチンとのこと。
そんなワクチンが登場するのは十年先のことだろうと思っていた人間としては衝撃で、これから先の妄想が止まらないので、ここに書き止めておきたい。
ウイルスの構造と仕組み
妄想の前に、ウイルスについて復習。
新型コロナをはじめとするウイルスはエンベロープと呼ばれるシャボン玉のような膜の中にRNAを包み込むような構造をしている。
ワクチンで話題になっているmRNAもRNAの一種。他にrRNAやtRNAなどの種類があるけれど、機能や役割に応じてそう呼んでいるだけで、すべてRNAである。
このRNAがウイルスが増殖するための肝で、宿主細胞(要は人間の細胞)に取りついたウイルスは細胞の中に入り込み、RNAを放出する。
細胞の中ではセントラルドグマと呼んでいる手順にしたがって、DNA → RNA → タンパク質という順番で生きるために必要な物質が生産されている。
ここにウイルスから放出されたRNAが混ざり込むと、細胞は本来必要なRNAなのか、ウイルス由来のRNAなのか区別がつかなくなってしまって、ウイルスの材料を生産し始める。こうしてウイルスは増殖し、細胞の外へと流れだし、次の宿主細胞を探す旅に出る。
デザインは自社で行い、生産は他者に任せるファブレス企業のように、自分では増殖に必要な生産設備を持たず、他人の設備を間借りして増えていくというのがウィルスの特徴。この「間借り」の過程で宿主の遺伝子が混ざったり、そもそもRNAが不安定な物質というのもあり、ウィルスは変異しやすいと言われている。
mRNAワクチンの仕組み
これまでのワクチンは、不活化したウイルスを投与することで人体に抗体を作らせるさせるという方式が一般的。けれどこれではウイルスを不活化させる方法を見つけるまでに時間がかかるし、せっかくその方法を見つけても、ウイルスが変異してしまったら最初からやり直しということもあり得る。
mRNAワクチンはRNAを人間に投与することでウイルスの抗体を細胞に作らせるという。RNAを投与するだけでいいというところがミソ。
ウイルスのRNAを解読するなんてすぐにできるわけで、任意の配列のRNAを製造する方法もありふれていて「RNA受託合成」なんてワードで検索すれば、サービスがいくつもヒットする。例えば、20塩基くらいの長さなら、1万円前後の価格で注文後1週間もすれば手元に届く。さすがにAmazonの配送スピードには敵わないけれど。
つまりは、ウイルスが変異してもすぐに対応したワクチンをつくれるわけで、もっといえばmRNAを利用するという方法は新型コロナに限らず幅広く応用が効く革新的な方法なはずなのである。
妄想
mRNAワクチンはまったく新しいワクチンなので、副作用はないのか、効果がどれだけ続くのかといった懐疑的な目は当然のごとくあるわけで、個人的にもこのまま何事もなくコロナを駆逐するようなハッピーストーリーはないだろうなとは思っている。
ただ、たとえその心配が現実になったとしても、これだけ汎用的な手法を実現したというのは間違いなくブレークスルーになるはず。
それこそ今年のノーベル賞を受賞したCRISPR-Cas9レベルのブレークスルー。新型コロナがもたらした科学技術の前進。
RNAは不安定で分解されやすいから、マイナス数十℃で保管しなければならないといった弱点はあるけれど、当座はドライアイスや液体窒素でしのぐとして、その保管条件のハードルは下がっていくでしょう。それこそウイルスの外殻を再現するような方法を開発するとかで。
そこでふと思うのは、細胞にRNAを送り込んで抗体を作らせるというmRNAワクチンの方法は、ウイルスが増殖する仕組みをそのままマネしているわけで、さらにRNAを包み込む外殻までもウイルスの模倣となれば、ワクチンとウイルスの境目はどこになるのだろうかと。
さらに踏み込めば、その人工外殻の中に入れるRNAに「増殖」と「毒性」をコーディングすれば、それは人工ウイルス兵器。人類はとんでもないものを作ってしまったのかもしれない。
対応して「治癒」と「増殖」をコーディングできれば解決するのだけれど。