シーソーモンスター | 人は争いの中で理解し進歩する

感想

バブルの只中、東西冷戦下の時代における嫁姑問題を題材にした『シーソーモンスター』と、2050年の日本を舞台にした逃走劇を描く『スピンモンスター』の中編2つ。

シーソーモンスター (単行本)

シーソーモンスター (単行本)

文芸誌『小説BOC』の創刊にあたって始まった「螺旋プロジェクト」のうちの一冊で、この前読んだ朝井リョウの『死にがいを求めて生きているの』もそのうちの一つ。
8組9人の作家が同じルールのもと、原始から未来の日本をそれぞれ描く。

死にがいを求めて生きているの

死にがいを求めて生きているの

そんな縛りがあるせいか、文体はいつもの伊坂幸太郎だけれど、物語の展開やセリフにはキレがなかったような……。
『死にがいを求めて生きているの』は価値観を揺さぶるような文章があったけれど、こっちにはほとんどない。

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『死にがいを求めて生きているの』と共通するのは「山族と海族の争い」とカタツムリのヒーローが活躍する「アイムマイマイ」、意識のない寝たきりの人がいること。
自分はそれが「螺旋プロジェクト」を進める上での縛りだとわかっていたからいいけれど、知らなかったら戸惑うのではないか。
朝井リョウのような現実寄りの作風だったら、「ファンタジー要素が入ってきたな。これが競作企画のルールか」と自然と気づくけど、伊坂のようなファンタジーと現実の際を狙うような作風だと、「雑な設定が入ってきたな……」と区別がつかずにシラけてしまう気がする。

争いがなければ人々は混ざりあわず、お互いに理解もできないし、進歩もしない。
そんな螺旋プロジェクトのテーマのようなものは見えたけれど、プロジェクトから離れた1作品としてはどうだろう?

シーソーモンスター (単行本)

シーソーモンスター (単行本)