きみの世界に、青が鳴る | 理想と成長の物語

感想 ※ネタバレあり

5年近く続いた階段島シリーズも今作で最後。

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)

計6冊の文庫を順番に並べると、 1. いなくなれ、群青 2. その白さえ嘘だとしても 3. 汚れた赤を恋と呼ぶんだ 4. 凶器は壊れた黒の叫び 5. 夜空の呪いに色はない 6. きみの世界に、青が鳴る 個人的に好きなのは『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』。気に入った文章を抜き書きしていたら、とんでもなく時間がかかった記憶がある。

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

シリーズのテーマである「理想」と「成長」の葛藤は、 この『きみの世界に、青が鳴る』で結末を迎える。
大多数の人間は、理想と折り合いをつけて大人になる。
ごく少数の選ばれし人間は、理想を叶えて大人になる。
そして残りの人間は、理想を抱いて溺死する。
どれが正しいのかはわからない。どれも正しいのだと思う。
ただひとつ言えるのは、たった一人で理想を追い続けるのは、寂しく悲しいと言うこと。

どっちつかずの物語の結末について、村上春樹みたいで良い言う人もいるだろうし、一方で、腑に落ちないと納得しない人もいるはず。好き嫌いが別れるところだろう。
実際、綺麗な文体と物語の余白と「成長」に対する寂寥感が、村上春樹を彷彿とさせるシリーズだった。

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

エピローグについて

大地の旅立ちから二年後に真辺が階段島を去り、さらに五年後に七草が自分自身と会ったことが語られるエピローグ。
23歳になった現実の七草は市役所に勤めているということだけど、素直に捉えるなら大地のことをきっかけに、児童相談所の職員になったとか、そういうところなんだろう。
そして現実の七草の指に光る指輪。真辺と結ばれたと考えるのは安易かもしれないけれど、そう考えれば辻褄が合う。
階段島の七草は、真辺に惹かれていたけれど、恋人同士の関係にはなりたくなかった。恋人という単純な言葉で表される以上の関係を、彼は理想としていた。そうした複雑でめんどくさい感情を、現実の七草が捨てたのであれば、彼と真辺が付き合うことは容易だったはず。
そして現実の真辺の方からしてみると、七草がそばにいてくれれば、理想を追い続ける自分を捨てる必要はない。だから階段島の真辺は消え、現実へと戻ることができた。
エピローグの余白を埋めると、だいたいそんなところだろう。

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)