アインシュタインの戦争 | 相対性理論をめぐるドラマ

アインシュタインの最大の功績とされる一般相対性理論が発表されたのは1915年。
この時、世界は1914年から4年間続く第一次世界大戦の真っ只中。分断されているのは科学界も例外ではなく、ドイツ人が書いた論文というだけで敵視されるような時代(逆もまたしかり)。
そんな時代に、アインシュタインの相対性理論がどのように広まり、終戦間もない1919年に、ついこの前まで敵国だったイギリスのエディントンが相対性理論を実証したかを描く。

描かれるのは賢者ではないアインシュタイン。
相対性理論は決して孤高の天才の頭の中で生まれたわけではなく、各地の研究者と交流することで磨かれていった。
戦争が始まり、国家主義が強まると、学会への参加どころか論文の入手すらままならなくなる状況で、歯がゆかったに違いない。アインシュタインは反戦の態度をとるが、国家主義の嵐が吹き荒れるドイツを変化させることはできなかった。

かろうじて戦争の網目を抜けて相対性論がたどり着いたイギリスでも状況は似たようなもので、ドイツの論文というだけでこの世紀の理論はまともに受け取ってもらえない。
そんな中でアインシュタインと同じように、反戦を掲げるエディントンは難解と言われた相対性理論を噛み砕き、1919年5月29日の皆既日食での相対性理論の実証に向けて足場を固めていく。

相対性理論をめぐるこのドラマを見ていると、この20世紀最大の発見がとても絶妙なバランスの上に成り立っていることを感じる。
アインシュタインの人間性がなければ生まれなかっただろうし、もう少し終戦が遅れれば実証される前に忘れ去られていたかもしれない。エディントンの啓蒙活動と、その後のアインシュタインのメディア対応がなければ、これほどまでに一般に知られる理論にもならなかっただろう。

E=mc2(※)なんていう無味乾燥な数式に落とし込める理論の裏に、こうした人間ドラマがある。
科学なのだから、政治や宗教や人間性からは切り離せと言われても、それらは同じく人間の営みの1つなのだから、分けることはどだい無理な話。
純粋な科学を求めるよりも、その不純な面を理解しながら過ごすことが肝要のような。

※E=mc2は特殊相対性理論から導かれる式であって、このドラマの主な題材である一般相対性理論とは関係が薄いですが、一般相対性理論を理解する能力も、その式を打ち込むスキルも私には不足しているのでご容赦ください。