隷属なき道|閉塞感を打ち破るためのシステムは?

サブタイトルからして「人工知能で人間の仕事の半分がなくなるから、ベーシックインカムで対応しましょ」って話かと思ったら、もっと広く不可避でどうしようもない話。そもそもAIなんてきっかけのひとつに過ぎず、格差や停滞で今の社会制度は限界だから、ベーシックインカムを導入するしかないという感じの内容。
冒頭の文が最高にカッコよく、現代社会の豊かさと閉塞感を表現している。

『ようこそ、良い生活へ。誰もが裕福で、安全で、健康な楽園へ。ここでは、足りないものはただ一つ、朝ベッドから起き出す理由だ』 p16

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

現代が、人間の歴史上、最も裕福で健康な時代であることは疑いようがないのに、現代人が歴史上、最も生きがいなく、あくせくと長時間働いているのはなぜなのか。
色々と理由はあるにせよ、いちばんは生きがいなく安全に働くことが、最もコストパフォーマンスがいいからではないか。
結局、裕福で、安全で、健康な楽園の住人の仲間入りを果たすには、保守的でつまらない行動を取るのが一番楽だから。心浮き立つような革新性や創造性にチャレンジして失敗するよりも、お決まりのつまらない作業をしていたほうが楽に安全に稼げる。
安全に稼いだ上で、ちょいと株や為替に手を出せば、それなりのリターンを得ることができるだろう。けれど、それは社会全体からしてみれば、富の移動でしかないわけで、新しい技術や価値を生み出しているのとは違う。

いちばん楽に安全に稼げるのは、決まり切ったルーティン作業に従事することで、未来に向けた技術や価値を創造することはリスクでしかない。そんな社会じゃ成長のへったくれもないわけで、沈んでいくしかないだろう。だったらベーシックインカムで最低限の生活は保証して、あとは革新性や創造性を発揮できることに力を入れてもらいましょうというのがこの本の提案。

ベーシックインカムを語るとき、財源をどうするんだというのはついてまわる話で、この本の中では色々理由をつけて可能であるというところに落ち着いて終わるのだけれど、結局のところやってみないとわからないだろうなというのが自分の感想。
ほんの通りの成果をベーシックインカムが実現したとしても、ベーシックインカムが現代の資本主義経済の上に成り立っている限り、はじめは良くてもいずれ今と同じような限界を見ることになるんじゃないかと思いもする。やるとしたら、成長頼みの資本主義から変えなければならないような。
選挙もあることだし、未来の社会について考えるのにちょうどいいい内容(今さら遅い)。

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働