『すずめの戸締まり』レビュー | 震災とダイジンの目的

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

期待はしつつも、『君の名は。』を超えることはあるまいと公開初日から観に行ったのですが、完全に裏切られました。『君の名は。』を超えたかもしれない。

ロードムービー

アクションシーンに引き込まれるオープニングから始まり、九州、四国、関西、東京、東北と続くロードムービー。けれどロードムービーでいつも感じるようなぶつ切り感はなくて、移動中に差し込まれるコメディパートや全体を通して貫いている叔母の環の「親心」がうまく機能していたように思う。

東日本大震災

「東北」「災い」と聞けば否が応でも思い浮かぶ東日本大震災。
『君の名は。』もそれを扱った作品ではあると思うのだけれど、彗星の落下によって失われる糸守町は震災のメタファーでしかなかった。
それに対して『すずめの戸締まり』ではフィクションとして心配になるくらいに直接的にあの震災が登場する。
画面端に見える福島第一原発。美しい海岸線を隠すようにそびえる巨大防潮堤。廃墟も残らないほど津波にさらわれてしまった平野。
そして絵日記に残された「3 11」の文字と、聞こえてくるあの日の喧噪。
あの日を境に何もなくなってしまった平野に、在りし日の風景が重なって「いってきます」の声が聞こえるシーンを、自分は涙無しに見ることができなかったけれど、トラウマに感じる人もいるかもしれない。そこだけは注意。

3.11を登場させた意味

「あの日」をエンタメに組み込んだことに賛否両論は起きるかもしれないけれど、入場者特典で配られた『新海誠本』を読むと新海誠の覚悟が感じられる。
『すずめの戸締まり』は過疎化や災害でほったらかしにされる日本の土地への鎮魂歌であって、10年経って風化しかけているあの日、あの場所を避けては通れなかった。
それは映画の最後に草太が言う「そこに住む人の思いが、土地を鎮める」(うろ覚え)に集約されていて、この物語はもう一度あの日に思いを馳せ、いまある場所や人の尊さを感じるためにある。
エンタメで死に接近することで、生きていて良かったと思える、それが物語の役割だという言葉が『新海誠本』にあるけれど、その通りになっている作品だと思う。
メタファーでお茶を濁さずに3.11を登場させた新海誠の覚悟に拍手。
朝の番組で新海誠が『君の名は。』『天気の子』から続く三部作の最終章、みたいなことを言っていたのを見ましたが、納得。

ダイジンは何がしたかったのか?

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
とはいえ、ストーリーを動かすために無理をさせている部分もあって、その不条理を一身にうけているのがネコの要石のダイジン。この作品の中でいちばんトリッキーな役回りをしている。
草太を椅子に変え要石の役割を押しつけた上に、各地の後ろ戸を開けて回る悪役かと思いきや、最後には自分の身を犠牲にして要石に戻るという、これだけみるとすごく一貫性がないキャラで、結局あのネコは何がしたかったんだという疑問が浮かぶけれども、善悪の切り口で考えてはいけないのだろう。
ダイジンはとてつもなく純粋で無邪気なやつで、要石としての役目から自分を解き放ってくれた鈴芽が大好きという目的、というか動機でしか動いていないのだと思う。
鈴芽が大好きだから、良い感じの雰囲気になっていた草太を呪う。
鈴芽が大好きだから、各地の後ろ戸に案内する(誤解されていたけれど)。
鈴芽が大好きだから、すずめの代わりに要石に戻る。

今作いちばんの不遇キャラはダイジンで間違いない。

まとめ

非常に胸に刺さった作品なので、小説版を読んでから2回目を観に行こうと思います。