TENET | 唯一無二の時間遡行

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感想

クリストファー・ノーラン最新作。
またとんでもないものをこの人は作りおった…

テーマは「時間遡行」。
『インセプション』での夢の中での時間の引き延ばしであったり、『インターステラー』のウラシマ効果だったり、『ダンケルク』の強引な時系列の引っかき回しであったり、ノーラン作品と「時間」は密接に関係してくる。
そこへ「遡行」となれば『メメント』を思い浮かべるけれど、今回は次元が違う。
ノーラン作品どころか、『ドラえもん』なり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なり、今までのタイムトラベルのイメージとも一線を画す。
古今東西、ある「点」へ向かっての時間遡行は数多くあった。1985年から1955年にタイムスリップするタイプ。1955年という「点」に行き着いた後は、時間は今までと同じ方向に流れていく。新聞の日付や周囲の服装や言葉遣いの「ジェネレーションギャップ」に慣れてしまえば、いつもの生活と変わらない。
それに対してこの『TENET』は時間遡行の過程を描く。上の例で言うなら、1985年から1955年までの「線」を逆再生のフィルムのように辿っていく。そんな現象、考えるだけでも混乱するけれど、『TENET』の画面内には時間順行で動く人間と、時間逆行で動く人間が入り乱れた上で、ドラマが成り立っている。
「点」へ向かう時間遡行は数あれど、その過程をプロットにして、さらには一級のエンタメとして映像化したのは初めてでは… こんな観客を混乱に叩き込むことが予想される映画、普通なら誰かが止める… 
プロットどうなってるんだ? どうやって撮影しているんだ? と映画の裏側が気になって仕方がない。
時間遡行をしている人たちの動きが心なしかぎこちなくみえますが、これたぶん、俳優たちに後ろ歩きさせてますよね…

そんな感じで撮影技法に極振りしたような作品で、ストーリー的には無機質。
何より最後まで主人公の名前が明かされず、クレジットにも「Protagonist=主人公」と記されるだけ。こういうことをするのは、主人公ではない別のことに焦点を当てたい場合か、「これは万人に当てはまる物語ですよ」と語りかける場合くらいしか思いつかない。間違いなく後者ではないだろう。

とはいえ、ストーリーの弱点なんて補ってあまりある衝撃の映像体験。というより、ここにストーリーを足されたら情報過多で私の頭の処理が追いつかない。
「この10年で最高の映画体験」という宣伝文句は誇大すぎやしないかと鑑賞前は思っていたけれど、「最高」かどうかは個人が決めるとして、唯一無二の映画体験になることは間違いない。

追伸:飛行機のシーンについて

映画の山場のひとつ、飛行機を倉庫に突っ込ませるシーンについて、パンフレットにおもしろいことが載っていたのでメモ。

このシーンの撮影はもともとミニチュアと視覚効果を使って撮影される予定だった。(中略)だが驚いたことがあったと、エマ・トーマスは打ち明ける。「試算してみたら、ミニチュアを作り、内観のためにフルサイズのセットを組み立てるよりも、引退した飛行機を購入した方が、費用対効果が高いことがわかったのよ」 p33

ノーランのことだから、ホントにボーイングを突っ込ませたんだろうなとは思っていたけれど、経緯が想像の斜め上。