空の青さを知る人よ | 海を知った蛙の行方は

スポンサーリンク

f:id:subtleblog:20191014184853j:plain
(C)2019 SORAAO PROJECT

監督・長井龍雪、脚本・岡田麿里、キャラデザ・田中将賀。
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』『心が叫びたがってるんだ』に続いて超平和バスターズの三作目。

舞台は相変わらずの秩父ということで、いつも通りに漂う盆地の閉塞感。
周囲を囲む山々が縁取る丸い青空は、本作のメッセージの、
「井の中の蛙 大海を知らず されど空の青さを知る」の蛙が見ている風景のよう。

この映画には2匹の蛙がいる。
東京を夢見るのは主人公のあおいと、ミュージシャンの慎之介である。
あおいは13年前に両親を亡くし、姉のあかねと二人暮らし。
あおいは幼い自分の面倒をみるために、当時恋人だった慎之介との上京を諦め、地元に残る姉に対して負い目を感じている。
ある日唐突にあおいの前に現れたのは、あおいと別れ東京に向かった13年前の高校生の慎之介。『あの花』のめんまのような存在で、あおいは彼を生き霊と呼ぶ。生き霊らしく彼には制約があって、出現場所のお堂の外には出られない。
一方で、31歳になった現実の慎之介も地元の秩父に帰ってくる。13年前の高校生の頃の明るさを失い、東京に出てミュージシャンとしての自分に見切りをつけた彼はスレていた。

井の中の蛙だった慎之介は空の青さに憧れて大海に出た結果、スレた大人になって戻ってくる。
ノンフィクションでもよくある話で、僕らはあきらめのついた状態を指して「大人になった」と酒の席でひとりごちたりするわけだけれど、この映画が言うには、それはまだ成長の過程なのだ。あきらめを知ったその先で、さらにあがけ。

あおいの力を借りてお堂から飛び出し、超人的な脚力(なんて言ったって霊なので)で秩父の空を飛び回る高校生の慎之介を、31歳の慎之介が追いかける。
高校生の自分が向かう先に、かつて恋人だったあかねがいるからだ。それまで情熱というものを微塵も見せなかった31歳の慎之介が、この時ばかりは必死で走り、あがく。
何とか高校生の自分の追いついた31歳の慎之介は、本当の意味であかねと再会し、心を通わせる。スレた大人の慎之介は、高校生の頃に捨てたはずの恋に再び行き当たった。
大海に出て、空の青さを見失った蛙が、再び空の青さを知ったのである。

一方で、もう一匹の蛙であるあおいはどうなったか。恋心を抱いていた高校生の慎之介は、31歳の慎之介と一つになって消えてしまった。
自分の恋路と姉の幸せとの狭間であおいは嗚咽する。
あおいの初恋は終わった。あきらめがついた。あきらめざるをえなかった。
けれどそれで終わりではない。
あの青い空を目指して、あがき続けなければならないのだから。
このあきらめが大人の第一歩。

終盤以降の唐突な展開についていけない人も多いだろうけど、切なくて、クスッと笑えるところもあって、個人的には好き。