断熱等級の効果の計算

家について考えているとよく目にするのが断熱等級。
しかしながら等級だけみてもどれだけの恩恵があるのかわからないので単純なモデルを想定して計算してみた。

断熱等級とは

家にどれだけの断熱性があるか示す等級。
UA値とηAC値の2つの値から決まるが、今回使うのはUA値のほう。外皮平均熱貫流率といい、室内・室外間の熱の通りやすさを示す値。低いほど断熱性が高い。
断熱等級によって以下の値が定められている(地域区分6の場合の値)。

UA値
等級7 0.26
等級6 0.46
等級5 0.60
等級4 0.87
等級3 1.54
等級2 1.67

課題設定

真冬の夜に暖房を切って就寝してから翌朝になるまでに、どれくらい部屋の温度が下がるかを計算する。
家の形は図のような単純な直方体とする。
室温と外気温の間に差があると、家の中の熱量が外気のほうに出ていき、部屋の温度が下がっていくことになる。

室内からの熱損失を考えるモデル

計算式

部屋から損失する熱量を Q_{loss} とする。
家の床、天井、壁の計6面の面積を足したものを A_{total}とすると、 外気温と室温、UA値を使って以下のように表せる。
 Q_{loss} = UA·A_{total}·(T-T_{out})

また、単位時間あたりの温度の変化に部屋の空気の熱容量 C_{air} をかけたものが損失熱量だから、  Q_{loss} = C_{air}· \dfrac {dT}{dt}
であり、上式に代入すると、
 C_{air}· \dfrac {dT}{dt} = UA·A_{total}·(T-T_{out})
となる。

この微分方程式を解くと、時間tに置ける部屋の温度 T(t)を求めることができる。  T(t) = T_{out}  + (T _{0}-T_{out})· e^{-kt}
ただし、  k = \dfrac {UA· A_{total}}{C_{air}}
である。

具体的な数字の代入

上で求めた式に具体的な数字を入れて kを求めていく。

まず、建物の表面積 A_{total}を求める。 延床面積を100  m^{2}として床の形状が正方形だとすると、床の幅と奥行きは10  m
天井の高さを2.4  mとすると、床、壁4面、天井の合計面積は、
 A_{total} = 100 + 4 \times 10 \times 2.4 + 100 = 296 m^{2}

次に建物内の空気の熱容量は空気の比熱容量 c_{air}、空気の体積 V_{air}、空気の密度 \rho_{air}とすると以下の式のようになるので、各々値を入れて、
 C_{air} = c_{air}· V_{air}· \rho_{air} \
= 1000 \times (10 \times 10 \times 2.4) \times 1.3 = 312,000 J/K

UA値は断熱等級の基準値そのものなので、取り急ぎ断熱等級4の値を使うと、定数 k k = \dfrac {UA· A_{total}}{C_{air}}\
= \dfrac {0.87 \times 296}{312000} = 8.3 \times 10 ^{-4}

この値を用いて、外気温 T _{out} =0の日に、室温 T _{0} =20の状態で暖房を切ったら1時間後( t = 3200s)に室温がどうなるかを求めると、
 T = 0  + (20 - 0)· e^{-8.3 \times 10 ^{-4} \times 3200} = 1℃
となり、暖房を切ったら1時間後に室温が1℃になるという計算になる。

いくら寒い家でもこんなことはないはず。
この考え方だと室内の空気のみが熱を持っていることになっているが、実際には建物自体も熱を蓄えているはずでその影響がここには含まれていない。

建物の蓄熱を考慮する

建物の蓄熱を考慮するために建物の熱容量 C_{structure}を求める。
木造家屋の質量を m_{structure}、その比熱容量を c_{structure}とすると、
 C_{structure} =  c_{structure}·  m_{structure}
となる。
以下では木造家屋の質量は10t=10,000kg、比熱容量は木材の1600  J/kgKとして計算すると、  C_{structure} = 1600  \times 10,000 = 16,000,000 J/K

建物内の空気の熱容量と合わせた合計熱容量は、
 C_{total} = C_{air} · C_{structure} = 16,312,000  J/K

上で出した式の C_{air} C_{total}に置き換えて、断熱等級4で計算すると、  k = \dfrac {UA· A_{total}}{C_{total}} \
= dfrac {0.87 \times 296}{16312000} = 1.6 \times 10 ^{-5}
となる。

この値を用いて、外気温 T _{out} =0の日に、室温 T _{0} =20の状態で暖房を切ったら1時間後( t = 3200s)に室温がどうなるかを求めると、
 T = 0  + (20 - 0)· e^{-1.6 \times 10 ^{-5} \times 3200} = 18.9℃
となり、暖房を切ったら1時間後に室温が19℃くらいという計算になるので、実生活の感覚的にはこちらのほうが近そうである。

断熱等級ごとの温度変化のグラフ

ということで、断熱等級ごとの温度変化のグラフを作ると次のようになる。

断熱等級ごとの温度変化

断熱等級3と4の間では大きな隔たりがあることがわかり、2025年以降は断熱等級4以上が義務化されるのも納得。例えば寝る前に暖房を切って8時間後に起床すると室温は断熱等級3の場合は約8℃なのに対し、断熱等級4では12.5℃程度になる。
2030年以降で義務化される予定の断熱等級5だと8時間後でも14.5℃、最高水準の断熱等級7だと17.5℃程度。断熱等級を上げると3℃くらいのメリットがあると上の計算では示される。

免責事項とまとめ

すごく単純な系での計算であり、現実がこの計算通りにはいかないはずなので、計算に考慮していない要素を以下に思いつくかぎり挙げる。
まず1つは空気の流れ。今回の系では空気の入れ替わりは考えておらず、完全に密閉された状態となっている。現実には換気システムが働き、空気の流入があるので上の計算よりも温度は下がる方向にいくはずである。
次に建物の熱容量。建物の質量と比熱容量を決め打ちしたが、建物の大きさが変われば質量は変わる。比熱容量も木材のものを持ってきたが、実際の建物は木造といえど石膏やコンクリートといった様々な材料を使っているはずなので、計算から乖離してくるはずである。さらには家の中にあるはずの家具や家電の熱容量も考慮できてない。
さらに建物内にある熱源も考慮できていない。暖房を消したとて、冷蔵庫は動き続けて熱源となるし、そこで生活をする人間も熱源である。

以上のように色々な要素を考慮しきれてはいないが、断熱等級をあげるとどれくらい室温に違いが出てくるのかという疑問にはざっくり答えられるのではないかと思う。

最後に、家づくりの参考になった本を載せておく。