まだ記憶に新しい、仮想通貨絡みの事件。
コロナの最中の仮想通貨バブルの中、時代の寵児になったサム・バンクマン=フリードのお話。
1兆円を集めて消した世紀の一発屋といえる人物だけれど、どんな一発屋でも何かしらの才能があるから一発を打ち上げられるわけで、その特殊性は3章の「メタ・ゲーム」を読めばわかる。与えられたルールの中で戦うというよりも、そのルールの裏を推測し、ルールが生む歪みを理解し期待値を計算し、自分にとって有利なほうに賭ける能力に長けている。そんな特異な能力があるからこそ、まだ誕生が間もなく非効率な仮想通貨市場で一時の金脈を見つけることができた。
裏ばかりついてくるので、普通の人はあまり関わりたくないタイプではないか。
普通の環境だったらこういったタイプの人間は組織の中で埋もれるか、角を削られていくはずである。ましてやサム・バンクマン=フリードは人の話も聞かず、Zoomをしながらゲームをしていたそうなので、1兆円を集める企業のCEOはおろか、直属の上司でも私だったらなって欲しくない。
けれど、そんな欠点は仮想通貨市場が急上昇している間は些細なもので、サム・バンクマン=フリードというリスクよりもリターンのほうがとてつもなく大きく、みんながこぞってお金を預けた。
しかし一旦バブルがはじけると、サム・バンクマン=フリードが経営していた会社の杜撰さが発覚し、みんながこぞってお金を引き出し、破産した。あまりに杜撰すぎるから詐欺ということになっているけれど、この本を読む限りは本人には全く悪気はなかったのではないか。
スティーブ・ジョブズにせよ、ビル・ゲイツにせよ、イーロン・マスクにせよ、悪い話はあるけれど、こういった取り返しのつかないことになる前に、誰かや何かが歯止めをかけていた。サム・バンクマン=フリードの運が悪かったのは、仮想通貨のバブルという自分の才能が最大限発揮できる時期に居合わせたせいで、破滅的なレバレッジをかけることができてしまったことかもしれない。
人生の賭けは失敗が許される範囲で行いましょう。