オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る | 異色の天才の言葉

コロナ対応で脚光を浴びた台湾のデジタル担当閣僚オードリー・タンへのインタビューを元にした本。
IQ180のプログラマーで、中学校中退で、トランスジェンダーで、35歳で閣僚に就任という異色の経歴を持つ彼女(今は「無性」とのことだけれど、男性から女性への移行期のようなので)が、飾り気のない言葉でデジタルについて語る。

ITの専門家らしく、難しい言葉が並ぶのだろうなと覚悟していたけれど、そんなことはなかった。平易な言葉の中に、『ドラえもん』や『エヴァンゲリオン』、『攻殻機動隊』などのジャパニーズカルチャーの影響も垣間見えて、親しみを感じる(日本の出版社に向けたインタビューというわけでもないだろう)。

専門家というより思想家で、デジタルは世界をよくするためのツールだとういう考え方が徹底している。コロナ対策でも高齢者にデジタル技術を押し付けるようなことはせず、どうすれば高齢者でも安心して使ってもらえるかとシステムを調整していったそうで、だから台湾はあれだけの成功が収められたのだなと。
それには急場しのぎのデジタルだけではなくて、日頃から価値観や情報を共有できている台湾のシステムも寄与していそうだけれど。

基礎的な知識を持っている人が多ければ多いほど、情報をリマインド(再確認)し、お互いに意見を出し合ったり、対策を考えることができます。逆に、少数の人のみが高度な科学知識を持っているだけの状態では、何が起こっているか理解していない人が多いということです。想像してみてください。もし前代未聞の出来事が起きたときに、誰にも相談できず、あなただけに決定権が託されたとしたら、果たして的確な判断を下せるでしょうか。このことからも情報の共有がいかに大切なものなのかがわかると思います。 p17

そんな彼女はAIについても同様に単なるツールだと考えていて、普及したところでそれを扱う人が必要だろうと語る。企業がAIを導入したがる一番の理由は人件費の削減だろうけれど、削減される労働がある一方で、新しい仕事も生まれるだろうと。
彼女の話を聞いて、コスト削減の話ばかり出てくる日本の組織に未来はあるのだろうかと心配になるしだい。