アフリカでは慈善事業や寄付で造られた無料の井戸が放置され次々と涸れていく一方で、有料の携帯電話は普及している。なぜか。
繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者:クレイトン・M クリステンセン
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日: 2019/06/21
- メディア: 単行本
慈善事業や寄付による施策は先進国からの押しつけとも言えるようなトップダウン型の方法で実行される。西洋化された文化を持たない後進国では維持するのが難しいシステムの運用を求められるため、地域に根付かない。そこに後進国が自ら行動するような自律性は発揮されず、先進国が目を話せば井戸は涸れてしまう。
一方で、地元に密着した人間が展開した携帯電話のような事業は、先進国の焼き直しではなく、アフリカの文化を考慮しビジネスに組み込んだので地域に根付くことができた。
次の文章が、文化と自律性の重要性を訴える。
自律性は、一朝一夕で備わるものではなく、新たな法律や体系を導入して形成できるものでもない。協力して問題解決にあたり、何がうまくいくのかをともに発見する「共有学習」を通して生まれる産物である。
社会の中で文化が形成されるときにも、同じことが言える。問題や課題が発生するたびに、関係者はそれを解決するために何をどのように実行するかを協議し決定する。その決定と付随する行動から、争いをうまく収められたなどの望ましい結果が得られれば、人々は次に同じ種類の問題に直面した場合に、過去と同じ決定を下そうとする。一方で、問題を解決できなかった場合には、次も同じアプローチをとることをためらうだろう。問題に取り組むたびに、問題そのものを解決するだけではなく、解決するために何が重要なのかを学ぶのだ。これらが積み重なって文化は形成され、あるいは消滅していく。 p242
これは国や地域といった大きな単位だけではなく、会社やチームといった小さな組織にも当てはまることだろう。
どんなに大きく、偉大な組織もやがて斜陽の時が来る。
失敗を繰り返しながら前進してきたチャレンジ精神旺盛な世代が去り、正しい答えだけを繰り返すことを求められて実行してきた層が大多数になったときがそのときだ。そのような組織では効率化の名のもとで、組織の縦割りも進んでいることだろう。
組織で共通の問題に取り組んだ世代はもういない。
文化なんてものは存在せず、したがって自律性も無に等しい。
そこへ、どこかのコンサルタントから仕入れてきた新制度を導入したところで浸透するだろうか。
Googleの社員食堂とか、ピクサーの企業内大学とか、働き方改革とか。
文化がないのにそんなモノを導入しても、結局「アフリカの井戸」と同じ結果に終わるのではないだろうか。
希望に溢れたこの本を読んで、本の本質とは関係ない、そんな後ろ向きなことをふと考えた。
繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者:クレイトン・M クリステンセン
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日: 2019/06/21
- メディア: 単行本