死に山 | 初動が大事

概要

1959年。ソ連のウラル山脈での不気味な遭難事故。
氷点下の中にも関わらず、犠牲者は衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。
三人は頭蓋骨折などの重傷、女性メンバーの一人は舌を喪失。 遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。
最終報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみで、ちまたでは隕石やソ連の陰謀説、宇宙人の襲撃といった説まで囁かれる。
事件から50年を経ても未解決となっている事件に、アメリカ人ドキュメンタリー作家が挑む。

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

感想

(1) 遭難場所となる峠に向かうディアトロフ隊
(2) 遭難したディアトロフ隊を探す捜索隊
(3) 事件の真相を探る著者
の3つの視点で進む構成。
特に(1)の視点で描かれる冷戦中のソ連の若者の暮らしぶりについては面白い読み物になっている。共産主義下で抑圧されていたのだろうと思っていたが、思いの外自由があって、禁制品も嗜んでいたりと、自由主義下の若者とそれほど変わらなかったのだなと。
このあたりは、好奇心をくすぐるために事件の不可解さにクローズアップしたものが多く、犠牲者への敬意が置き去りにされがちだったことに対する著者の静かな憤りが反映されているのだと思う。

肝心の事件の真相に関してはいまひとつ。
著者は峠の地形が発生させる「超低周波音」によって、ディアトロフ隊のメンバーがパニックとなり、安全なテントから極寒の世界へと飛び出したという説を唱えている。
エイリアンやソ連の陰謀説に比べたらありそうな仮説ではあるけれど、いかんせん裏付けとなる実験結果がなく、学者に現地の写真を見せたら超低周波音が起こってもおかしくない地形だと言っていたというだけでは説得力が少ない。

結局、事件から年月が経つと真相を究明することは指数関数的に難しくなるということか。初動が大事。

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相