未来のミライ | 長所を伸ばそう

あらすじ

妹が生まれ、お兄ちゃんになった4歳児のくんちゃんは、お父さんとお母さんの注目を集める妹の未来ちゃんに嫉妬する。疎外感を持つくんちゃんの元に現れた、不思議な男をきっかけにして、くんちゃんと家族の成長の物語が始まる。

未来のミライ (角川文庫)

未来のミライ (角川文庫)

以下ネタバレあり

感想

『時をかける少女』『サマー・ウォーズ』の細田守監督のオリジナル長編5作目。
物語はとんでもないんだけど、それが逆に細田監督の演出のすごさを際立たせている。 何かと比較されがちな新海誠監督を引き合いに出すならば、『君の名は。』は新海誠の尖った部分をマイルドにして、万人ウケしそうな部分を集めた新海誠の「集大成」。
この『未来のミライ』は細田守の弱点を放置して、長所を活かすことに専念した細田守の「真骨頂」。

大人気の細田守作品だけれど、今作は夏休みに家族で見に行くような映画ではない。
間違っても『サマー・ウォーズ』のような爽快感や、『時をかける少女』のような甘酸っぱい青春を求めてはいけない。

時をかける少女

時をかける少女

サマーウォーズ

サマーウォーズ

ここにあるのは、まるで4歳児の頭の中を覗いているかのような混乱。 なぜならこの映画には、物語の流れと呼べるものがないからである。
ふり返れば、予告編がなんだか煮え切らない感じになっていたのもそのせいかもしれない……。

脚本を奥寺佐渡子さんに任せてた『時をかける少女』『サマー・ウォーズ』。
細田監督と奥寺さんの連名の『おおかみこどもの雨と雪』。
そして原作・脚本が「細田守」になった『バケモノの子』。
細田監督の脚本への影響度が大きくなるにつれ、物語に粗が目立つようになってきていたから、「細田監督の弱点はストーリーテリングだ!」みたいな話はチラホラ見かけることがありまして。

バケモノの子

バケモノの子

今回も原作・脚本「細田守」ということでどうなるのかと思っていたら、まるで開き直ったかのように物語を捨ててきた。
唐突に庭におじさんが現れて「自分はかつてこの家の王子だった」と語り出す。
唐突に現れた未来のミライちゃんは、主人公でもなければ、キーパーソンでもない。
『AKIRA』以上のタイトル詐欺。

AKIRA 〈Blu-ray〉

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唐突にくんちゃんは過去へ飛び、過去のおかあさんとひいおじいちゃんに出会う。
かと思えば唐突に未来へ飛び、未来の自分から悪態をつかれた末に、時空の迷子になる。
ツッコミどころが満載のストーリー。

けれど細田監督がすごいのは、こんなスジのないストーリーでも、ちゃんと感情を揺さぶるところ。
犬の動きに感嘆し、バイクのエンジン音に驚き、夕焼けのツーリングに懐かしさを覚える。
こんなにストーリーがめちゃくちゃなのに、何で俺、ホロっと来てしまっているんだろう……。

映画のストーリーのなさが、逆に細田監督の演出の恐ろしさを際立たせている。
そんな映画に仕上がっている。

次回作はどうするんだろ。
また自分で書くのか、それとも監督に専念するのか。 個人的には一度、『サマー・ウォーズ』以前のように監督専念でやってみてほしいけれど。

未来のミライ (角川文庫)

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