八月十五日に吹く風 | 人の心を忘れたとき

あらすじ

人命を軽んじ易々と玉砕するという野蛮な日本人観が戦時中のアメリカでは広まっていた。そんな日本人観が覆る決め手となった北の最果てキスカ島での救出劇。五千人の兵員を助けた戦史に残る大規模撤退作戦を描く物語。

八月十五日に吹く風 (講談社文庫)

八月十五日に吹く風 (講談社文庫)

感想

最近描かれた戦時中の脱出劇といえばクリストファー・ノーランのダンケルク。
絶体絶命の日本軍が島から脱出するこの小説は、日本版のダンケルク。

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とはいえ、本家が40万人の脱出劇なのに対して、こちらは5,000人とスケールでは劣る。
なので、ノーランが音と映像で脱出劇を描いたのに対して、こちらは登場人物一人ひとりの物語で勝負する。映画『永遠のゼロ』で夏八木勲のセリフにある通り「あの戦争には一人ひとりの物語があった」。その物語は数で語れるものではない。

日本軍の上層部は、現場の兵士たちが人であるという認識が薄くて、まるで駒であるかのように玉砕の命令を下す。それが自分のプライドや権力を守るためだったりするものだからやりきれない。
その玉砕の様を見て、アメリカ軍は日本人が自分たちとは相容れない存在であると認識する。その狂信的な思想は日本軍だけではなく民間人にも浸透していて、地上戦をしては民間人に殺されかねないと。民間人を非戦闘員はみなせず、だから民間人を巻き込む空襲や原爆は正当化されるのだと。
人を人と思わなくなったとき、何かの歯車が狂い出すのだなと。
そしてその連鎖を断ち切ったのが、キスカ島の撤退作戦。日本軍の中にかろうじて残された「人を人と思う」心だったというのがなんともいえない。

八月十五日に吹く風 (講談社文庫)

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