ベストセラーコード|アルゴリズムかく語りき

物語で人は動く。
適切な物語さえ与えれば、自己犠牲を厭わない英雄的な行動も、ホロコーストのような残虐な行為も、人間にはできてしまう。それほどに物語の力は強力なのだ。
その昔、何かを物語ることは神さまだけの特権だった。人間は神さまが語る物語を神話や聖書を通して知り、その御心に応えるように行動した。
そのうちに物語の特権は人間へと下り、国や組織が利用するようになる。
そして現在、インターネットのおかげで何かを物語る権利は個人の手へと渡っている。
果たしてこれからはどうなるのだろう? 物語の権利は、人間だけの特権に留まるのだろうか? 人間の仕事が人工知能に奪われると言われている中で、何かを物語る権利が人間だけのものであり続けるとは思えない。 人間が神さまからその特権を奪ったように、人工知能も人間から特権を奪って行くのではないだろうか。
そして人工知能が人間の語る物語を理解して、人を動かすストーリーを語り始めたら?  思うに、ターミネーターのスカイネットのような強権的で独裁的な機械の支配は未来では起こらない。もっと緩やかに事態は進む。機械が物語を作り、それを知らず知らずのうちに人間が受け入れることで、人間は機械の思い通りに動くことになる(なんなら今でもGoogleとAmazon、Facebookは広告というメディアでそれに近いことをやっている)。
これは人工知能が人間の物語を理解するまでのお話。

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

なんか思いついたら楽しくなって、大仰な前置きになってしまいましたが、何のことはない、話題の機械学習を使って、コンピュータに数千冊の本を読み込ませたら、ベストセラーになるかならないかを80%の確率で当てられるようになりましたという話。

ベストセラーの条件としてコンピュータが選んだのは家族や友人、恋人といった「親密な関係」がテーマに据えられていて、物語の適切なタイミングで主人公がポジティブな感情とネガティブな感情の間を揺れ動くこと。ここまでは物語論やら脚本術やらで大昔から言われていることなので、車輪の再発明。

おもしろいのは、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」や「ミレニアム」、「ゴーン・ガール」など、バイオレンス描写が直接的すぎて今までのセオリーでは売れないと考えられていたベストセラー小説に対するアルゴリズムの答え。
人間だと過激な描写に目がいきがちだけれど、アルゴリズムの冷静で定量的な視点では、どれも親密な関係を描いていて、感情のカーブがきちんとあり、ベストセラーになっても不思議ではないとわかる。このあたりはアルゴリズムが人間の評論家の判断を超えてきている。このアルゴリズムを使って、物語に何が足りないかを一目でわかるようになれば編集者がどれだけ助かることか。

一方で、アルゴリズムで最適化された物語が巷に溢れたら、人間の嗜好のほうが変わってきてしまって、新しく最適化が必要になってきそうな気もする。
どの物語が「ベストセラーになるか」≒「おもしろいか」がコンピュータにわかるようになったわけだけれど、その「おもしろさ」は人間が感じるおもしろさと同じなのかというクオリア的な疑問も浮かぶ。

小説の分析を皮切りに、映画の分析だったり、コンピュータに物語を書かせたりと色々な方向に発展しそうでおもしろい内容の本である。

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム

ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム