反脆弱性|現代は効率的すぎて脆弱だ

働き始めて驚いたのは、予定どおりに終わる仕事やプロジェクトがほとんどないこと(もちろん自分の担当分も含めて)。
効率的と呼ばれる方法を試し、生産性を向上させるという触れ込みのツールを導入し、マンパワーを得るために外注までしている。
それなのにプロジェクトは予定どおりに終わらない。順調に進んでいると思っても、突発的なトラブルが発生して、プロジェクト全体が遅れてしまう。
そんな経験は誰にでもあるはず。

効率的に動くよう設計された計画やシステムは、順調にいけば効力を発揮する。
けれどひとたび人間の予想もしなかった現象が起これば、システムは最悪の場合崩壊する。福島の原発が良い例だ。

この本では、効率を重視するあまり予想外の事態に対して脆弱になってしまった現代社会に、「反脆弱性」という新しい概念を提供する。 著者は「ブラック・スワン」のナシーム・ニコラス・タレブ。

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る

効率化した結果、脆弱になったシステムにはハブ空港が挙げられる。
そこでは数分に一本のペースで飛行機が離着陸し、そのおかげで格安の乗客は格安の料金で旅行ができる。けれどどれかのフライトが数分でも遅れだしたら、玉突き的に問題が大きくなり、空港全体の機能が大きく低下してしまう。
全体を効率的に動かすためには、一つの失敗が命取りになる。それが脆弱なシステム。

一方で、反脆弱なシステムなのはWikipediaだ。
誰もが書き込むことができる百科事典。そこに書かれていることにはもちろん間違いがあるけれど、長い目で見れば正しく書き換えられる。
失敗がシステムにとって命取りになるのではなくて、むしろ失敗がシステムを強化している。 これは生物の進化と似ている。遺伝子のコピーミスが変化を生み、変化は環境のストレスによって試されて、いい変化であれば生き残り、全体として進化する。
失敗を許容するシステムに停滞はない。失敗によってむしろ強くなるのが「反脆弱」なシステム。

科学技術の進歩がひと段落し、停滞した感じのある現代社会。(特に日本では)失敗することが大きなリスクになっている。
生活を成り立たせるためには、不確実なことに挑戦するよりも、適当な企業に就職して、適当な仕事をやっているのが一番安全。むしろ挑戦した結果が失敗では、平均的な生活を送ることさえ難しくなってしまう。

効率を第一に考える社会は絶えず成功することを要求してくる。
けれど成功するとわかっているということは、もうすでに誰かがやったことなのだ。それをもう一度繰り返したところで、進歩はあるのだろうか。
おまけに、それが成功するのは現在の環境がこのまま続いているときだけなのだ。大震災やリーマンショックのような大きな変化が訪れたときに、効率を重視した脆弱なシステムは生き残れない。
成功しか許さない社会に成長はあるのだろうか。失敗を許容することで成長する「反脆弱」な社会構造こそ、これからの未来に必要なことなのかもしれない。

とまあ、「反脆弱性」を起点にして色々と考えさせられる本。
惜しむらくはこれから大切な概念になるだろうと納得はできたのだけれど、では「反脆弱性」を強化するにはどうすればいいのかという具体的なところがあまりなかったところ(感覚的には説明されている)。
個人レベルでいうなら、兼業とかで、一つの収入源に頼らないということだろうか。
社会レベルでいったらベーシックインカムあたりが鍵になってきそう。

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

反脆弱性[上]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
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反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

反脆弱性[下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方

  • 作者: ナシーム・ニコラス・タレブ,望月衛,千葉敏生
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2017/06/22
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