田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)
- 作者: 渡邉格
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/03/17
- メディア: 文庫
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岡山駅から二時間の田舎にある、天然菌を使って発酵させたパンを売るちょっと変わったパン屋の話。
「腐る経済」と銘打ってはいるけれど、経済学の話ではない。どちらかというと、「天然菌を使った発酵」という独自の方法を使ったパン屋を開き、好評を得るまでに「こんなことを考えてやってきました」という紹介である。
著者は新卒で入った農産物の卸業者で産地偽装などの不正を目撃し、退職してパン屋を目指そうと始めた修行時代には、コストは安いが安全性はグレーな材料が使われ、従業員が長時間労働を強いられている職場を経験した。すべては利益を上げるため。
そんな利益至上主義の嫌気がさした著者は、利益を出すことは考えず、とにかく本当にいいものを提供するパン屋を作ろうと決意する。
材料は地元で取れる天然栽培のものにこだわり、パンを発酵させるための菌も自然から取ってきて培養したものを使う。従業員がゆとりを持って暮らせるように、週休3日、さらに年に1ヶ月の長期休暇を取る。
原価が高いぶん、高価なパンになってしまったけれど、豊かな風味がするということで、地域の人は喜んで買っていってくれるし、従業員も笑顔で働けているそうだ。
「利益を出さない」というお店の信条は、資本主義とは逆行する考え方で実行するには勇気のいることだと思うけれど、筆者の例ではうまくいった。
このあたりは、最近WIREDで読んだBコーポレーションの話と重なってタイムリーな内容だった。Bコーポレーションは利益より、社会への貢献を重視する。筆者のパン屋は、おいしく安全なパンを提供することで地域社会に貢献しているのである。
こういう利益より「貢献」を大事にする会社が成功しているのってなんなんだろう? 本文中にあった次の文章がヒントになりそうな気がする。
「差別化」しようとしてつくったものに、大して意味のある違いなんて生まれないと思う。
「個性」というのは、つくろうとしてつくられるものではない。つくり手が本物を追求する過程で、もともとの人間性の違いが、技術や感性の違い、発想力の違いになってあらわれて、他とどうしようもなく違う部分が滲み出て、その必然の結果として生み出されてくるものだ。 p204
目先の利益のために「差別化」をしようとするとわかりやすい方法に走りがちである。
例えるなら、高校生が髪を染めるみたいな差別化。でも、それは誰もが真似できることであって、本質的な差別化にはつながらない。むしろ「人と違うこと」をしようとみんなが髪を染めるものだから、結局、埋もれてしまうかもしれない。
同じように「これをこうやったら利益を上げられる」と理論で考えられることは差別化につながらないのではないだろうか。理論は誰もが使えることだから、誰もが同じものに行き着いてしまう。
だからむしろ、自分の内にある声に耳を傾けて、本当におもしろいと思えるもの、本物だと思えることを突き詰めることが大事なのでは。
経済のことに限らず、様々なことに考えを巡らすことのできる本なので、ぜひ多くの人に読んでもらいたい。
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)
- 作者: 渡邉格
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