『アイアンマン』のトニー・スタークのモデルと言われるほどの、フィクションの世界から飛び出して来たような大実業家、イーロン・マスクの伝記である。
電子決済サービスのPayPalの創設者の1人であり、そこで得た資金を元に電気自動車のテスラモーターズと民間宇宙ロケット企業のスペースXを創り、いずれも成功を収めている。
イーロン・マスクのマネをすれば、3つとは言わなくても1つくらい会社経営して小富豪ぐらいになれるかと期待しつつ本を読み始めたけれど、ダメだこれ、マネできん。この男は1日23時間働いても平気らしい。エネルギーありすぎ。普通の人にはムリだ。
イーロン・マスクにはなれなくても、読んでいておもしろい本である。
『次のジョブス』とも言われるイーロン・マスク。
たしかに最新のテクノロジーと消費者の欲望を結びつける能力はジョブズに似ている。
けれど、生まれながらにして強烈なカリスマ性を持っていたジョブズと違って、マスクはオタクな子どもだった。そのせいでいじめにあい、苦しい子ども時代を過ごしたという。
ペイパルの前身であるX.comを立ち上げてからも何度も苦しい時期があった。テスラもスペースXも倒産の危機をギリギリのところですり抜けてきた。
逆境を乗り越えていくうちに、リーダーシップを身につけ、オタクからカリスマになってきたマスクの半生には勇気づけられる。
逆境を乗り越えることで強くなってきたマスクが子どもたちについて語る言葉が深い。
子供たちが自分のような苦悩とは無縁の人生を送っていることに、マスクは一抹の不安を覚える。苦悩があったからこそ、今のマスクがあり、強い力と意志を持てるようになったからだ。
(中略)「今の子たちには、逆境を人工的に作るしかないね。私が子供たちに与えた最大の試練なんて、ビデオゲームの時間を決めたくらいですよ」 p299