勘と人脈の金融界に数式で挑んだ物理学者たちの物語。
高度な数学的テクニックを駆使して投資に臨む彼らはクオンツと呼ばれる。
リーマンショック前に難解な数学モデルを使って莫大な利益を生んでいた彼らも、リーマンショック後にはその原因を作ったとして批判された。リーマンショックは、金融という不確かなものを数学で記述し、それに頼った、無謀な挑戦への代償であると。
はたして投資の世界に数学モデルという異物を持ち込むクオンツは悪なのか?
この本はクオンツに肯定的だ。
異分野に積極的に進出した開拓者精神を褒め称える。不完全なツールでも、ないよりあった方がいい。失敗と修正を繰り返し、完成度の高いものにすればいい。
それは金融に限らない。新しいものを作りたければ、完璧を目指さず、とりあえず作れ。作ったもののエラーは後から直せばいい。それが前進への近道だ。
この文章を書いている今、年明けから連続で株価が下がり続けている。
自然界と違って金融界は人の手によって急激に変わるから数式モデルがアテにならないときが出てくるのではないだろうか。中国のサーキットブレイカーのような新制度が度々登場してはシステムを変えてしまう。
それは自然界でいえば物理定数が突然変わったり、次元が増えたりするようなものだろう。そうなれば、自然界を記述する物理方程式だって使いものにならない。ただそんな変動は宇宙がもう一度作り直されない限り起こらないから、物理方程式は安定したものになる。そこが金融システムと違うところ。
システムは変化し続けるから、使っているモデルを常に検証し改善していかなければならない。
下がり続ける株価も、その裏で奮闘している「ウォール街の物理学者」に思いを馳せれば楽しく見ることができるはず。