ホワイトラビット|とびはねるプロット

いつも他の作家とは違った語り口で読者を楽しませるのが伊坂幸太郎だけれど、今回はいつも以上のぶっ飛びよう。
神さまのような視点から「次にはこういうことが起こります」「そのころこちらではこういうことが……」と地の文で説明してしまう(『レ・ミゼラブル』を参考にしているみたいだけど、映画しか見たことのないにわかの私にはわからない)。
その語り口に好き嫌いはあるだろうし、自分も最初は戸惑ったけれど、後半の伏線回収の疾走感の前では霧消する。あまりの疾走感に一気読み。

ホワイトラビット

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あらすじは単純で「仙台の住宅街で人質立てこもり事件が起きました」ってていどのものなのだけれど、時系列が複雑に入り組んでいる。ウサギが飛び跳ねるように場面や時間が気まぐれに飛ぶ。それがこの作品の面白さ。
ある場面での違和感が、別の場面で説明されて、読み進めていくうちに、パズルが組み上がるように事件の全体像が見えてくる。
地の文に神の視点を取り入れているのも納得で、このプロットを普通の小説のように登場人物の一人称に近い視点で見えられていたら、訳がわからなくなっていたことだろう。それぐらいにプロットが入り組んでいて、伊坂幸太郎の本領発揮という感じ。

『ゴールデンスランバー』のような国家規模の陰謀があるわけじゃなく、立てこもり事件が発生して解決しましたっていう感じの、何てことはない小さな風呂敷の物語だけれど、発生から解決までの「いろいろ」な部分を楽しめればいい。

はい、生まれました。はい、死にました。その間には、いろいろあるんだよ、お父さん。 P268

ただ楽しめればそれでいい。そういった潔さのある、ある意味とても純粋な一級のエンターテイメント小説。

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