ユリゴコロ|生まれの性質は変えられないのか

「家族が殺人犯だったら?」というテーマで始まるミステリー。
主人公の実家から「ユリゴコロ」と題された4冊のノートが見つかる。そこに書かれていたのは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文。自分の家族に殺人者がいたのか? 主人公は真相を探る——。
湊かなえの『告白』が好きな人にオススメの作品。

ユリゴコロ (双葉文庫)

ユリゴコロ (双葉文庫)

前半は気持ち悪ささえ感じる殺人犯のサイコパスさがメイン。けれど後半になり、ある人との出会いがきっかけで、殺人犯の中に「心」と呼べるものが芽生えてくる。
ようはハンニバル・レクターが普通の人間へと変化するような大転換なわけで、それをここまで滑らかに転換させるのはすごいなあと。
個人的には感情とか心というものが何も教えずとも人間に備わっているものだとは思っていないので、偶然の出会いで人が心を持つというこの物語がけっこう気に入っている。

人は心というものを生まれながらにして持っている。
それは確かに「心」というものの尊さや美しさを説くのにぴったりの言葉だけど、現実には程度の差こそあれ「心」を実感できていない人がいるはずで、そんな人に対してあなたにも生まれながらに心というものが備わっているのですよと説いても混乱するだけだろう。「生まれながらに備わっているものを私は持っていないようなのだけれど、どうすればいいの?」と。
もっと悪いのは「心」を持っていないのにそのことを認識せず、心ないことを他人に強いる人。そんな人に「あなたにも心があるのです」と説いても、その人の行為を正当化するだけで、事態は悪化するだけ。「俺は人の気持ちがわかる。だからどれだけ無理を強いても俺がそう思わなければその人は大丈夫なのだ」と。

人の「心」は生まれてからずっと固定されているような代物ではなくて、それまでの人生経験や、今日の天気次第でも変化するものなのだから、むしろこの本のでてくる登場人物みたいに、心とは何かのきっかけで芽生え育まれるものなんですよ、と考えた方が救いを得られると思うのです。

ユリゴコロ (双葉文庫)

ユリゴコロ (双葉文庫)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)