意識はいつ生まれるのか

 

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

 

 

科学に残された数少ないフロンティアの1つ「意識」の正体について、先端学者が語る1冊。

 

個人的に2045年問題に納得できないところがありまして、「2045年には、コンピュータの性能が人類を超える(処理する情報の量という点で)」というところはいいとして、なんでそれが問題になるのかわからない。
単に性能の上がったコンピュータは今よりもっと便利な道具でしかないはず。2045年に人間を超えたコンピュータが「意識」を持つという論調の文章も見るけれど、いくら情報処理の量や速度が向上したところで「意識」が生まれる気はしないなあ、と思ったところで、そもそも「意識」って何だ? という疑問が湧いたので、本書を手に取った次第。

本書によれば、「意識」が生まれるには「システムが情報を統合しているかどうか」という条件がありそうだということが、医師である著者の2人が様々な実験によってわかったそうだ。
「意識」が宿るシステムは、脳のように無数の情報処理素子(ニューロン)から構成されていることが必要である。けれどそれだけでは足りない。情報処理素子の数で「意識」の有無が決まるなら、今ごろインターネットは「意識」を持っているはずである。

著者たちは、システムの意識の有無を示す尺度として、外界から入る無数の情報をシステムが統合しているかに注目した。外界からの無数の情報を、無数の情報処理素子が処理し、相互作用し、1つの出力を行う。その情報処理の過程で意識が生まれるという。
実際に睡眠中と覚醒中の人間の脳の活動を測定してみると、意識の有無と情報の統合に関係があったというからおもしろい。
著者たちは情報の統合量を示す文字にΦを使っている。Φといえば空集合。意識の有無を示す尺度に空集合の文字を当てるセンスがすばらしい。
統合という概念は説明が難しいと思うのにデジタルカメラの比喩を使って、だいぶわかりやすく噛み砕いてあるから、読み物としておもしろい。

やっと「意識」の正体の糸口がつかめたところなのだから、「2045年にコンピュータが意識を持って…」なんていう予測は成り立たない気がするけれどなあ。
人間の脳を完全に理解しない限りコンピュータが意識を持つことはいつまでもないような。逆に言えば、脳を理解できさえすれば明日にでも意識を持ったコンピュータができるということだけど。

 

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論