ブリリアンス

ブリリアンス―超能ゲーム― (ハヤカワ文庫NV)

 

 世界の総人口の1%が特殊能力を持つ “超能者” として生まれる。一般人と違う彼らの一部は成長してテロリストになる……というX-MENのような設定のサスペンス。
とはいっても、超能者たちの能力は目からビームを出したり、どんな怪我でも治ってしまうような荒唐無稽な派手なものじゃなく、常人よりも複雑なパターンを理解できるという地味なもの。
とはいえ、世の中の出来事の大半はパターンで記述できるわけだから、超能者は筋肉の動きのパターンから相手の行動や感情を先読みしたり、株価の変動パターンを予測して巨万の富を築くことができる。そんな魔法のような能力を発揮する超能者は、普通の人々から嫉妬のような感情を向けられて、迫害を受けている。

自身も超能者でありながら、悪の超能者を取り締まる調査員のクーパーが主人公。そんな正義と悪の境界にいるようなクーパーの視点で進む物語のテーマは、
序盤にあるクーパーの上司の言葉が掲げている。

「魔女を火あぶりにした男——彼は人が焼け死ぬのを見たかったのだろうか、それとも、自分が悪魔と闘っていると信じていたのだろうか?」 p55

文体も自分の好み。

ラジオのパーソナリティは、戦争が近づいていると言った。まるでそれを期待しているかのように。 p10
たとえば、天文学だよ。望遠鏡から科学者が得る重要な情報は目に見えない。放射線スペクトル、レッドライン、電波、データ。大事なのはそれだ。何かを教えてくれるのは。なのに、みんな写真を見たがる。鮮明な色の超新星を。科学的にはまったく役に立たないのに」 p401

立場が二転三転し、それまで絶対だと思っていた正義に裏切られて苦悩するクーパーの姿が示すのは、正義と悪が簡単に定義できたらどれだけいいかということ。
人はたいてい自分が正しいと思っているものだし、悪人になろうとは思わない。
そんなことを感じた作品。結局最後は無難なオチになるんだけど。

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