ジャンル-小説

52ヘルツのクジラたち | きっと誰かに届く叫び

52ヘルツのクジラたち作者:町田そのこ発売日: 2020/04/21メディア: Kindle版 本屋大賞ノミネートということで、積読の山から引っ張り出す。 52ヘルツのクジラは、実際に存在している(と思われる)正体不明のクジラの個体。1980年代から鳴き声だけは観測され…

アーモンド | 猿まねの感情

アーモンド作者:ソン・ウォンピョン発売日: 2019/07/12メディア: Kindle版 2020年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位。 扁桃体が人より小さい十六歳の高校生、ユンジェの物語。 扁桃体は感情を司る器官で、アーモンドの形に似ているとか。それが小さいということは…

さよならの言い方なんて知らない。4 | 英雄の条件

さよならの言い方なんて知らない。4(新潮文庫)作者:河野裕発売日: 2020/09/29メディア: Kindle版 架見崎最強プレイヤー月生、架見崎最大のチームPORTとの闘いを描いた3巻の後の箸休めといった感じ。 臆病者の主人公、香屋歩は自らが運営に突き付ける質問を…

逆ソクラテス | 道徳の時間です

感想 伊坂幸太郎デビュー20年目の短編集。収録5編のうち、書き下ろしは3編。 小学生の主人公たちが教師の決めつけやいじめの原因といった「先入観」に立ち向かう。 先入観がひっくり返る瞬間はとても心地いい。 逆ソクラテス (集英社文芸単行本)作者:伊坂幸…

蜜蜂と遠雷 | 音楽を野に還す

感想 国際的なピアノコンクールのオーディションに、規格外の少年が現れたところから物語は始まる。 圧倒的な演奏を披露した少年は、音楽学校に通っていないどころか、ピアノさえ持っていない。幼いころからお金のかかる英才教育を施すことが当たり前となっ…

82年生まれ、キム・ジヨン | どこにでもある女性差別の話

「韓国で100万部突破のフェミニズム小説」という謳い文句にどれだけ苛烈な内容が描かれているのかと身構えてしまったけれど、何のことはない、描かれているのは日本にも当てはまるようなありふれた女性差別の話。 82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)作者: チ…

クジラアタマの王様 | 夢に逃げるな。現在と戦え。

あらすじ 製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない…

シーソーモンスター | 人は争いの中で理解し進歩する

感想 バブルの只中、東西冷戦下の時代における嫁姑問題を題材にした『シーソーモンスター』と、2050年の日本を舞台にした逃走劇を描く『スピンモンスター』の中編2つ。 シーソーモンスター (単行本)作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 20…

死にがいを求めて生きているの | このホラーのテーマは生きがいと多様性です

あらすじ 誰とも比べなくていい。 そんな優しい言葉を囁かれて育った平成の若者は、 生きがいを見出せず、死にがいを求めて生きている。 死にがいを求めて生きているの作者: 朝井リョウ出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2019/03/07メディア: 単行本この…

かがみの孤城 | 思春期のモヤモヤを文章に

あらすじ ある出来事がきっかけで学校に行けなくなった中学一年生のこころ。毎日を家で過ごす彼女の前で、ある日突然、鏡が輝き出す。鏡をくぐった先には城があり、こころの他に中学生が六人集められていた。現実から隔てられた世界で、七人の中学生は心を通…

フーガはユーガ | 伊坂幸太郎の『悪童日記』

あらすじ 常盤優我は仙台市内のファミレスで一人の男に語り出す。 双子の弟・風我のこと、決して幸せえなかった子供時代のこと、 そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。 —— 帯文より フーガはユーガ作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 実業之日本社発…

暗幕のゲルニカ | 暗幕に覆われた悲惨さ

あらすじ 国連本部。「テロとの戦い」と称して、イラク攻撃を宣言する米国務長官。 普段、「ゲルニカ」のタペストリーが飾られているはずのその背後には、それを隠すように暗幕がかけられていた。 世紀の画家、ピカソはその衝撃作にどんなメッセージを託した…

火星に住むつもりかい? | 正義と平和は危ない言葉

あらすじ 「平和警察」によって取り締まれられる仙台。平和警察の管理下では、住人の監視と密告によって「危険人物」と見なされた者は、衆人環視の中で処刑される。そんな不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは「正義の味方」、ただ一人。平和警察と…

地下鉄道 | 「自由」を求める我々はそれがどんなものであるかを知らない

あらすじ 舞台は19世紀、奴隷制度が根付くアメリカ南部。農園の奴隷であるコーラは、その劣悪な環境から逃亡することを決意する。農園を抜け出し、「地下鉄道」に乗って、奴隷制度のない北部を目指すコーラ。その先に待ち受ける「自由」とは。 地下鉄道作者:…

八月十五日に吹く風 | 人の心を忘れたとき

あらすじ 人命を軽んじ易々と玉砕するという野蛮な日本人観が戦時中のアメリカでは広まっていた。そんな日本人観が覆る決め手となった北の最果てキスカ島での救出劇。五千人の兵員を助けた戦史に残る大規模撤退作戦を描く物語。 八月十五日に吹く風 (講談社…

ナミヤ雑貨店の奇蹟 | 相談するとき答えはすでに決まっている

あらすじ 悪事を働いた3人が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。廃業しているはずの店内に、悩み相談の手紙が届く。3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが——。 ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)作…

羊と鋼の森 | 成長とは自分の「正しさ」を貫くこと

あらすじ 本屋大賞受賞作の文庫化。 高校生の時の偶然の出会いで調律に魅せられた外村は、念願の調律師として働き始める。ひたすら音と向き合い、人と向き合い、外村は調律の森へと深く分け入っていく。 羊と鋼の森 (文春文庫)作者: 宮下奈都出版社/メーカー…

夜空の呪いに色はない | 夜を経験せずに大人になれるのか

あらすじ 『階段島』シリーズ第五弾。 捨てられた人格が生活し、魔女が支配する「階段島」。その島にやってきた小学生の大地を現実に戻すべく、高校生の七草と真辺は奔走する。大地のような幼い少年が、自分の人格を捨てるなんてことがあってはならない、と…

未必のマクベス | 台本通りに進む人生なんて

あらすじ IT企業に勤める中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。あるとき優一はマカオの娼婦から「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」と予言めいた言葉を告げられる。やがて香港の子会社の代表取締役として出向を命…

エクソダス症候群 | 逃げ道だって無限にあるわけじゃない

久しぶりに伊藤計劃風味のSFを読んだ。 これだけで感想としては十分かもしれない。 エクソダス症候群 (創元SF文庫)作者: 宮内悠介出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2017/07/20メディア: 文庫この商品を含むブログを見る あらすじ 人類が火星に移住を開始…

ザ・サークル|人生お金じゃない、いいね!の数だ

『ベストセラー・コード』でアルゴリズムが絶賛し、11月10日にはトム・ハンクスとエマ・ワトソンが出演する映画が公開! 否が応でも期待が高まる。 ザ・サークル (上) (ハヤカワ文庫 NV エ 6-1)作者: デイヴエガーズ,吉田恭子出版社/メーカー: 早川書房発売…

ホワイトラビット|とびはねるプロット

いつも他の作家とは違った語り口で読者を楽しませるのが伊坂幸太郎だけれど、今回はいつも以上のぶっ飛びよう。 神さまのような視点から「次にはこういうことが起こります」「そのころこちらではこういうことが……」と地の文で説明してしまう(『レ・ミゼラブ…

ユリゴコロ|生まれの性質は変えられないのか

「家族が殺人犯だったら?」というテーマで始まるミステリー。 主人公の実家から「ユリゴコロ」と題された4冊のノートが見つかる。そこに書かれていたのは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文。自分の家族に殺人者がいたのか? 主人公は真相を探る——。 …

AX|同じだけど違うものを

『グラスホッパー』『マリアビートル』から続く、伊坂幸太郎の「殺し屋」小説第3弾。今回は恐妻家の兜が主人公。 ハリウッドの脚本市場でいうところの「同じだけど違うものをくれ」という要望に応えるような作品。 AX アックス (角川書店単行本)作者: 伊坂…